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Educational Lecture 1
教育講演1
EL1-1
Amyotrophic lateral sclerosis and optineurin
筋萎縮性側索硬化症とオプチニューリン

Maruyama Hirofumi(丸山 博文)
Dept. of Clinical Neuroscience and Therapeutics, Hiroshima University, Japan

筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は運動ニューロンが障害されて、筋力低下・筋萎縮を呈する神経変性疾患である。鑑別すべき疾患としては頚椎症・多巣性運動ニューロパチー・球脊髄性筋萎縮症・重症筋無力症などがあげられる。主訴が体重減少であったり呼吸困難や嚥下困難である症例ではなかなかALSの診断にたどりつかないこともある。また経過とともに前頭側頭葉型認知症様症状を呈する症例もある。治療についてはリルゾールに加えてエダラボンが使用可能となり、HAL(下肢用ロボットスーツ)を用いたリハビリテーションも保険適応となった。医師主導治験としてHGF(hepatocyte growth factor)・メチルコバラミン・ペランパネル・ボスチニブが進行中であるが、依然として根本的な治療法はない。そのため呼吸器などを使用しなければ発症後3-5年で死亡する難病中の難病である。発症機序の解明のためには家族性に発症するALS患者の原因遺伝子を同定し、それを手がかりにすることが有効と思われる。オプチニューリン(optineurin: OPTN)は劣性遺伝性の家系を解析することにより発見されたALSの原因遺伝子である。OPTN変異によるALS患者の臨床経過は緩徐進行例から急速進行例まで、一定の傾向はない。病理学的所見としては運動ニューロンの消失に加え、残存神経細胞においてゴルジ装置の断片化が増加していた。生理的にはOPTNはNF-κB(Nuclear factor kappa B)の活性を抑制することが知られていたが、ALSとの関連は全く予想されていなかった。ALSで認められたOPTN変異を導入した細胞実験ではNF-κB抑制効果が消失し、細胞死の増加が確認された。またALS患者2869例のエクソームシークエンスによるリスク遺伝子・パスウェイの検討においてOPTN- TBK1 pathwayの重要性が指摘された。OPTNはオートファジー受容体であることも報告されている。このようにOPTNはALS発症に関与していると想定されている神経炎症・ユビキチン/プロテオソーム系・オートファジー系と関係を有し、発症に対して幅広い影響を与えていると考えられる。
EL1-2
Schizophrenia
統合失調症

Onitsuka Toshiaki(鬼塚 俊明)
Department of Neuropsychiatry, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

Dr. Onitsuka will describe general topics on schizophrenia and at-risk mental state for psychosis. Schizophrenia is the mental disorder, established as a brain disease, and affecting 1% of the world population. Its onset from 18-25 years cripples people in the most productive period of their lives with positive symptoms (thought disorder, delusions, hallucinations) and negative symptoms (poor social relationships and self care). His data show it is characterized in MRI neuroimaging by loss of brain gray matter (neuropil, not cells), some of which occurs before full symptom onset and some of which progresses in the 1-2 years after onset. This is most prominent in some neocortical regions and is associated with worsening of symptoms. Also concomitantly progressing are electrophysiological signs, such as mismatch negativity abnormality. One of the most intriguing abnormalities is a disturbance in gamma band oscillations, known to be dependent on pyramidal-GABA neuronal interaction and for which there are known relationships with neurotransmitter abnormalities. Hereditary factors are important but there are no genes with major effect. Unraveling the pathophysiology is a major issue, and he will discuss some current neuroscience efforts to understand the pathophysiologic basis.
EL1-3
What is whole-cell simulation?
全細胞シミュレーションとは何か

Kaizu Kazunari(海津 俊明),高橋 恒一
RIKEN Center for Biosystems Dynamics Research

細胞シミュレーションとはどのようなものか、その目的と歴史、現在の状況と限界について我々が推し進めてきたE-Cellプロジェクトを中心に概説する。細胞シミュレーションの歴史は古く、1950年代にはHodgkin-Huxleyらによる有名な電気生理学モデルが提唱され、1970年代には酵素反応速度論に基づく代謝のシミュレーションが行われている。2000年以降、計算機と計測技術の向上により、システム生物学の登場とともにシミュレーションは生物学において必要不可欠な技術となった。細胞は多数の分子とその相互作用からなる複雑なシステムであり、個々の要素の知見からその全体的なふるまいを予測するには人の頭脳では限界があり、計算機の助けが必要不可欠である。計算機上に生命システムを再構成することで、細胞のふるまいをその原理から理解し、予測し、制御することが可能になる。しかし、細胞シミュレーションには生物ならではの様々難しさがある。たとえば、細胞をまるごと再構成するためには、遺伝子発現、シグナル伝達、代謝といった性質が全く異なり、従って適切な計算方法も異なる複数の現象を同時に扱う必要がある。また近年、蛍光顕微鏡技術の進歩は細胞内の1分子の動きを捉えることを可能にし、細胞を個々の分子の物理的なふるまいから理解することが求められている。さらに、細胞を構成する要素は多く、原核細胞ですらマイコプラズマ菌で約500、大腸菌では約4000の遺伝子からなり、その反応ネットワークはさらに巨大で入り組んでいる。こうした大規模かつ複雑な対象をモデル化し、また日々報告される新しい知見に対して最新に保ち続けなければならない。E-Cellプロジェクトは1996年の発足以来、細胞1つをまるごとシミュレーションすることを目標として、細胞の示す様々な機能や生命現象のモデル化とシミュレーション、そしてそれに必要な理論と計算技術の開発を続けてきた。本講演では、いかにして先に述べたような問題が解決され、ゲノムから細胞を再構成するという細胞シミュレーションにおける最先端のひとつである全細胞シミュレーションが実現されつつあるのかについて紹介する。