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神経病理
スポンサードシンポジウム
シングルセル・空間的トランスクリプトーム
7月7日(金) 9:00-10:30 Room A
2SY①-1
重症筋無力症を伴う胸腺腫におけるnmTec(neuromuscular mTec)の同定
Identification of neuromuscular mTec(nm Tec) in MG-associated Thymoma

奥野 龍禎1, 安水 良明2, 望月 秀樹1
1. 大阪大学 神経内科, 2. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター
Tatsusada Okuno1, Yoshiaki Yasumizu2, Hideki Mochizuki1
1. Department of Neurology Osaka University Graduate School of Medicine, 2. Osaka University Immunology Frontier Research Center

胸腺では組織特有抗原(TRA)を発現する胸腺上皮細胞(TECs)が介在する負の選択により、自己反応性T細胞が除かれるが、胸腺上皮が腫瘍化した胸腺腫においては様々な自己免疫性神経筋疾患を伴うことがよく知られている。最も頻度の高いのはアセチルコリン受容体抗体が神経筋接合部を障害することにより発症する重症筋無力症(MG)であるが、それ以外にも自己免疫性脳炎や視神経脊髄炎, Issacs症候群、stiff person症候群などが合併する。これらの神経免疫疾患において併存する胸腺腫に標的抗原が発現することが報告されており、発症との関連が示唆されていた。我々は公開胸腺腫バルクRNAシーケンスデータにアクセスし、MG特異的遺伝子を探索したところ、MG合併胸腺腫では神経筋関連分子が増加していることが明らかになった。これらにはニューロフィラメントやGABAA受容体、VGKC, ライアノジン受容体といった胸腺腫に関連して出現する自己抗体の標的分子が含まれていた。手術で摘出した胸腺腫を単離し、シングルセルRNA Seqを行ったところ、これらの神経筋関連分子がTecの亜集団で発現しており、neuromuscular mTec(nmTec)と名づけた。胸腺腫の病理学的検討においてnmTecはケラチン6C陽性、ケラチン17陰性、GABA A受容体陽性で定義された。nmTecは抗原提示を行う機能を備えていること、また抗原による感作から自己抗体を産生に至る全ての分化段階のT細胞とB細胞が胸腺腫に存在していることから、胸腺腫内ではnmTecが神経筋抗原を提示することによりMGをはじめとする自己免疫性神経筋疾患のトリガーとなることが示唆された。
7月7日(金) 9:00-10:30 Room A
2SY①-2
ヒト剖検脳を解析対象としたシングル核RNAシーケンシング:アルツハイマー病を中心に
snRNA-seq of human autopsy brains : focus on Alzheimer's disease

宮下 哲典1, 他田 真理2, 原 範和1, 長谷川 舞衣1, 菊地 正隆3, 齊藤 祐子4, 村山 繁雄4,5, 柿田 明美2, 池内 健1
1. 新潟大学 脳研究所 遺伝子機能解析学分野, 2. 新潟大学 脳研究所 病理学分野, 3. 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 生命システム観測分野, 4. 東京都健康長寿医療センター 高齢者ブレインバンク, 5. 大阪大学大学院 連合小児発達学研究科
Akinori Miyashita1, Mari Tada2, Norikazu Hara1, Mai Hasegawa1, Masataka Kikuchi3, Yuko Saito4, Shigeo Murayama4,5, Akiyoshi Kakita2, Takeshi Ikeuchi1
1. Department of Molecular Genetics, Brain Research Institute, Niigata University

シングル核RNAシーケンシング(snRNA-seq)は、単離した細胞核一つ一つを解析対象として、そこに含まれる転写産物を次世代シーケンサーで読み取る解析手法である。本法の登場により、単一細胞レベルで、発現する遺伝子の同定や遺伝子発現量を定量することが可能となった。その結果として、組織を構成する細胞種の特定や類似細胞のグルーピングが可能となり、例えば、脳内で少数のミクログリアに着目して、遺伝子発現量の比較解析を行うことができるようになった。従来のバルクレベルの解析、すなわち、細胞集団全体の解析では、希少な細胞種の遺伝子発現量は大勢に埋没し、希釈・平均化され、結果、見落とされることが指摘されていた。本法によって、その問題点が克服、あるいは軽減されたと言えよう。また、組織内での位置情報を損なうことなく、細胞間の関係を保持したまま単一細胞レベル、あるいは、それに近いレベルで、遺伝子発現量を解析することのできる空間トランスクリプトーム解析も広がりを見せている。例えば、老人斑に近接するしないでミクログリアの形、性質、機能は影響を受けるはずで、その違いを遺伝子発現の有無や量で客観的に評価することができる。かつての単一遺伝子のmRNAを対象としたin situハイブリダイゼーション技術を大いに超越し、その手法の複雑さ、多様さ、データ量の多さはまさにブレイクスルーである。神経病理学の分野にあっては、今後考慮すべき重要な技術と考えられる。本学会では、我々の最近の取り組みについて、アルツハイマー病剖検脳を主な解析例としながら、紹介する。こうした背景もあり、剖検脳の品質管理はますます重要であることを合わせて付け加えたい。
7月7日(金) 9:00-10:30 Room A
2SY①-3
疾患複雑性を解き明かす組織空間オミックス解析
Access the full richness of biological complexity with spatial multiomics

雨貝 陽介
10x Genomics Japan株式会社
Yosuke Amagai
10x Genomics Japan KK

複雑で多因子にわたる神経変性疾患、精神疾患、神経発達疾患を引き起こす生物学的なメカニズムを解き明かすためには、細胞から組織、さらにその先に至るまでの包括的なアプローチが必要である。10x GenomicsのVisium 空間的遺伝子発現を用いると、病理切片の位置情報を維持しながら、組織における遺伝子発現の変化を網羅的に捉え、疾患の原因となる新規因子がどこで影響していたのかを解析することができる。本発表ではVisiumやシングルセルレベルでの組織空間オミックス解析を可能にする新しい装置、Xenium In Situについても紹介し、脳神経研究の新しい応用発展性について議論したい。
7月7日(金) 9:00-10:30 Room A
2SY①-4
空間オミクスを指向したプロテオーム解析技術開発
Development of spatial omics-oriented proteomics

松本 雅記
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 オミクス生物学分野
Masaki Matsumoto
Dep. Omics Systems Biol. Niigata Univ.y Grad. Sch. Med Dent.l Sci.

近年、次世代シークエンサー(NGS)の高感度化や並列化が進み、1細胞や超少数の細胞でのトランスクリプトーム解析が可能になっている。その一方で、生命現象の担い手であるプロテオームの計測技術は、さまざまな技術的・原理的な理由で十分に成熟していない。このような背景から、われわれは、超高感度にタンパク質を絶対定量できるin vitro proteome-assisted MRM for protein absolute quantification (iMPAQT) 法 (Matsumoto M. et al. Nat. Methods, 2017) や、超少数細胞を直接的に質量分析計に導入する技術であるISPEC法(Hata K. et al. Anal. Chem. 2020) を開発してきた。最近では質量分析のハイスループット化に注力し、最大100検体/日のスループットで数千タンパク質を定量できるシステムを構築した。さらに、プロテオーム解析の試料調製を飛躍的に省力化できるin situ digestion of alcohol-fixed cells (iSDAC)法を開発し(Hatano A. et al. J. Biochem. 2023)、ソーティングで得た微量細胞のプロテオーム解析へ応用した(Aoyama S. et al. Cell Chem. Biol. 2023)。現在、よりハイスループットに試料調製を可能とするiSDAC-HTPを開発している。本発表では、これらの技術の原理や応用例を紹介し、空間オミクス研究への応用の可能性などを議論したい。