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神経病理
ワークショップ
精神神経科疾患の神経病理学の将来
7月7日(金) 16:00-18:00 Room A
2SY③-2
発達障害・精神・神経疾患ブレインバンクの創設
Establishment of Neurodevelopmental, Neurological and Psychiatric Disorders

村山 繁雄1,2, 齊藤 祐子2
1. 大阪大学大学院連合小児発達学研究科子どものこころの分子統御機構研究センターブレインバンク・バイオリソース部門, 2. 東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク
Shigeo Murayama1,2, Yuko Saito2
1. Brain Bank for Neurodevelopmental, Neurological and Psychiatric Disorders, United Graduate School of Chiold Development, Osaka University, 2. Brain Bank for Aging Research, Tokyo Metropolitan Institute for Geriatrics and Gerontology

高齢者ブレインバンク(BBAR)は、生前献脳同意、オープンリソース、神経病理診断を含む品質管理の共有の元、革新学術領域研究費援助を受け、日本神経科学ブレインバンクネットワークの中核施設の役割を果たしている。大阪は東京につぎ生前献脳同意登録者が多く、大阪大学神経内科、大阪刀根山医療センターの協力の元、関西拠点を構築している。一方日本神経病理学会ブレインバンク委員会の30年にわたる活動によっても、精神疾患死後脳、特に気分障害リソースは極めて少なく、自閉症脳は皆無である。AMED研究費を受け、精神疾患蒐集を目的とする日本ブレインバンクネットが、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)を中核施設として構築され、BBARの協力の下、発達障害・精神・神経疾患ブレインバンクを創設した。連合小児は自閉症研究を行っており、国際承認心理士が診断した自閉症児のトリオゲノムを蒐集・管理している。自閉症親の会へのアンケートでは、ブレインバンク構築に好意的回答が得られている。大阪母子医療センターでは、ブレインバンク構築について、医局会承認を得ている。また、東京では得られなかった法医学教室の協力を得ることにより、司法解剖レジストリの構築を開始している。欧米のsuicide bank、autism brain netのようなシステム構築には克服すべき多くの問題があるがスタート出来た点は大きい。またCOVID19感染による剖検数の激減は徐々に回復しつつある。BBARは変性型老化の網羅的スクリーニングを行っており、精神疾患死後脳のコントロールリソース提供での貢献が期待できる点が、本邦の利点である。
7月7日(金) 16:00-18:00 Room A
2SY③-3
統合失調症の大脳皮質におけるGABAニューロンの変化
Alterations of cortical GABA neurons in schizophrenia

橋本 隆紀1
1. 国立病院機構北陸病院, 2. 金沢大学大学院医学系 精神行動科学, 3. ピッツバーグ大学精神医学部門トランスレーショナルニューロサイエンスプログラム
Takanori Hashimoto1
1. National Hospital Organization Hokuriku Hospital, 2. Department of Psychiatry and Behavioral Science, Kanazawa University, 3. Translational Neuroscience Program, Department of Psychiatry, University of Pittsburgh

統合失調症では、作業記憶をはじめとする認知機能障害が持続し、予後に大きな影響を与えている。認知機能のための情報処理を行う大脳皮質の神経回路は、興奮性の錐体ニューロンと抑制性のGABAニューロンによって構成される。統合失調症では、作業記憶に中心的な役割を有する背外側前頭前野において、GABAニューロンのサブタイプの特異的マーカーであるパルブアルブミン(PV)やソマトスタチン (SST)の低下が、複数の異なる脳バンクから繰り返し報告され、これらのニューロンの変化が示唆されてきた。本発表では、ピッツバーグ大学の死後脳バンクを利用した我々のグループの研究から明らかになってきた、PVニューロンおよびSSTニューロンにおける特異的マーカーの発現変化の実態を、最新の知見を含めて説明する。また、これらのニューロンの変化について、認知機能障害の病態に関与する可能性がある分子機構、作業記憶ネットワークを形成する大脳皮質の各領域における分布、さらに統合失調症の他に精神病症状や認知機能障害が認められる双極性障害やうつ病との比較を紹介したい。
7月7日(金) 16:00-18:00 Room A
2SY③-1
記憶長期化のシグナル伝達解明により精神神経疾患分子病理の理解を目指す
Gaining insights on neuropsychiatric diseases via elucidating the signal transduction of memory persistence

尾藤 晴彦
東京大 院医 神経生化
Haruhiko Bito
Dept. of Neurochem., Grad. Sch. Med., Univ. of Tokyo

記憶形成時の可塑的刺激によって活性化された神経細胞集団にて、シナプス入力は核内でのCREB依存的転写誘導を引き起こす。シナプス入力は、シナプス局所における神経可塑性シグナルを引き起こすのみならず、長期記憶・長期可塑性を制御するシナプスと核を結ぶ活動依存的神経可塑性メカニズムをも活性化する。我々はこれまでに、シナプスと核の間の情報伝達の解読を通じ、特に、核からシナプスに至る複数のCREB経路、ならびにその下流の標的遺伝子であるArcの制御に基づく逆シナプスタギング機構を明らかにしてきた。興味深いことに、これらの機構と不可分のCa2+-CaMK-CREB-Arc経路には、ヒトゲノム解析により、精神神経疾患発症に係るrare causative mutationが近年多数見出された。そこで、これら変異がもたらす神経細胞分子病理と、こ、に起因する神経回路機能破綻について研究を始めている、これらにより、統合失調症・自閉症・知的障害などの疾患における記憶長期化メカニズム破綻の関与の意義が明らかにできるようになると期待される。またこのような生化学基盤の解明により、可塑性に寄与するゲノム・蛋白の構造モジュール情報を駆使して、神経情報の活動痕跡を記録する技術を創出することが可能となった。この結果、速い活動電位動態を記録可能な次世代Ca2+インディケーター群XCaMP、ならびに活性化神経細胞集団を標識する合成プロモーターE-SAREの開発が進み、神経回路計測・標識の技術革新が実現し、新たな脳情報動態学を創成する礎となっている。