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神経病理
入門コース
初歩から学ぶ神経病理学
7月8日(土) 8:30-10:30 Room B
3SY①-1
脳と脊髄の肉眼観察、Brain bank用の凍結組織の採取と保存法
Macroscopic observation and frozen specimen sampling of the brain and spinal cord

清水 宏
新潟大学脳研究所 病理学分野
Hiroshi Shimizu
Dept. of Pathol., Brain Res. Inst., Niigata Univ.

当教室は脳神経内科、脳神経外科、精神科など本学臨床各科と協力し、神経疾患、精神疾患を対象としたregional brain bankを構築し、また日本ブレインバンクネット(JBBN)ではコア施設としての役割を果たしている。ブレインカッティングでの肉眼観察に重点を置き、解剖から研究用サンプルの採取・保存まで、当教室での実際を紹介したい。
病理解剖は診断の確定、死因の究明、病態解明など様々な目的で行われる。脳・脊髄の肉眼観察はこれらのスタートとなるため重要である。容量や色調の変化、硬さ・柔らかさなどの病変の性状、また分布は、ヒト検体を手に取り、自分の眼で観察することにより、実感を持って理解できる。観察眼を養い、診断の精度を高め、また良質な研究標本の採取に努めたい。
研究検体では、蛋白質・DNA・RNA解析を可能とする凍結標本の必要性が高く、大脳半球の片側を凍結し網羅的にサンプリングしている。OCTコンパウンド包埋の急速凍結標本も作製している。解剖の時間的制約、標本保存スペースの制約などを解消し、また保管システムの整備などを通じて、多くの研究者の要望に応えられるように努力している。解剖体制の拡充にも増して、倫理面に配慮し、患者・遺族の気持ちに沿った解剖を行うことが重要である。献脳の篤志を解剖につなげてくれた臨床医と十分に対話し、臨床と病理の対比を通じて病状の全体像を理解できた場合に、サンプルの重要性も格段に高まるように思われる。
7月8日(土) 8:30-10:30 Room B
3SY①-2
脳神経系標本の染色と観察の実際
Staining methods and light microscopic examination of the nervous system

若林 孝一
弘前大学大学院医学研究科 脳神経病理学講座
Koichi Wakabayashi
Department of Neuropathology, Hirosaki University Graduate School of Medicine, Hirosaki, Japan

 脳神経系の観察においても基本はHE染色である。HE染色によって、神経細胞、グリア細胞、血管に関する多くの情報が得られる。正常のグリア細胞はHE染色では核しか見えないため、核の形態で区別する。星状膠細胞はクロマチン粗の卵円形核を有する。乏突起膠細胞はクロマチンに富む小型円形核を有する。小膠細胞は棍棒状の小型の核として認められる。しかし、反応性アストロサイトでは細胞体や突起が明瞭となり、HE染色でもその存在が確認できる。
 HE染色と併用される染色法がKluver-Barrera(KB)染色である。KB染色では髄鞘とニッスル小体が染まる。したがって、灰白質と白質の境界が明瞭となり、神経核や伝導路の同定が容易になる。さらに、神経細胞の形態や数のみならず、白質病変(虚血、梗塞、脱髄)の検出にも有用である。
 軸索の染色に用いられるのがBodian染色とニューロフィラメント免疫染色である。Bodian染色は嗜銀性構造物(アルツハイマー神経原線維変化やピック小体)の検出にも有効である。鍍銀染色としては他に、Bielschowsky染色とGallyas染色がある。
 グリオーシスの検出にはGFAP免疫染色やHolzer染色が用いられる。
 神経細胞脱落の正確な判定には「一定の物差し」が必要である。それは、同一の標本処理(固定)がなされた、同一レベルの正常例(対照例)と見比べてみることである。加齢による影響も考慮すると、ほぼ同年齢の正常例と比較することで、どの程度の神経細胞脱落があるかが明らかになる。このような比較検討を繰り返してゆくことが見る目を養う一つの方法である。グリオーシスの判定も同様である。
7月8日(土) 8:30-10:30 Room B
3SY①-3
脳血管障害
Cerebrovascular diseases

宮田 元
秋田県立循環器・脳脊髄センター 研究所脳血管研究センター脳神経病理学研究部
Hajime Miyata
Department of Neuropathology, Research Institute for Brain and Blood Vessels, Akita Cerebrospinal and Cardiovascular Center

脳血管障害とは,脳が虚血や出血によって障害される疾患や,脳血管が病的変化によって障害される疾患(血管壁の異常,狭窄,閉塞,透過性異常)の総称であり(NINDS-III,1990),臨床的に無症候性血管障害,局所性脳機能障害,血管性認知症,高血圧性脳症の4つに分類される。局所性脳機能障害は一過性脳虚血発作と脳卒中に区分され,脳卒中はさらに脳出血,くも膜下出血,脳動静脈奇形の出血,脳梗塞に分類される。これら4つの臨床病型の背景には共通の病理学的経時変化がある。脳血管障害の病理学的検討は,病理診断や治療効果の評価資料に止まらず,病態の把握や臨床画像所見の背景病理を知るうえでも有益である。
1.発症前から慢性の血管病変や基礎疾患が存在する(脳卒中の準備期)
直接原因となる血管病変は主に粥状動脈硬化,細・小動脈硬化,脳アミロイド血管症,脳動脈瘤などである。基礎疾患には腫瘍や血液凝固線溶系異常などがある。
2.急性脳破壊性病変と頭蓋内圧亢進(急性~亜急性期)
頭蓋内出血は規則的な進展を示す。脳梗塞は血管支配領域に一致した病変分布を示す。頭蓋内圧亢進により脳は特徴的な変形を生じる。
3.病巣修復機序と二次変性(亜急性~慢性期)
脳卒中病変は亜急性期以降にマクロファージの貪食作用によって徐々に吸収されつつ空洞化し,病巣周囲の脳組織では反応性アストロサイトの増生(グリオーシス)とともに新生血管が出現する。慢性期に病巣は完全に空洞化し,グリオーシスは線維性グリオーシスを経てグリア瘢痕となる。出血性病変は鉄沈着を残す。以上の経時的病巣修復機序に加えて,破壊部から離れた部位にワーラー変性や経シナプス変性といった二次変性が生じる。