TOP神経病理
 
神経病理
入門コース
初歩から学ぶ神経病理学
7月8日(土) 13:50-16:20 Room B
3SY④-1
神経病理入門コース:炎症、脱髄、プリオン病
Introductory course of neuropathology about the inflammation, demyelination and prion disease

岩崎 靖
愛知医科大学 加齢医科学研究所 神経病理研究部門、長久手、日本
Yasushi Iwasaki
Department of Neuropathology, Institute for Medical Science of Aging, Aichi Medical University, Nagakute, Japan

中枢神経系の炎症は様々な原因によって生じる。ウイルス感染、細菌感染、真菌感染が代表的であるが、自己免疫性機序によって生じる例もある。また、炎症の部位によって脳炎(脳症)、髄膜炎、脳膿瘍、脳室炎(脳室上衣炎)、小脳炎、脊髄炎などに分けられる。代表的な中枢神経系の炎症疾患である細菌性髄膜炎(化膿性髄膜炎)では、くも膜の混濁や脳表面に白色調の膿の貯留を認め、くも膜下腔に好中球を主体とした炎症細胞浸潤を認める。ウイルス性の脳炎や髄膜炎では、くも膜下腔、脳実質、血管周囲、Virchow-Robin腔に、リンパ球を主体とした炎症細胞浸潤を認め、核内や細胞質内に封入体を伴うことがある。脱髄とは正常に形成された髄鞘が破壊され、軸索が相対的に保たれている状態を指し、髄鞘の形成障害や、軸索障害による二次的な髄鞘障害は含まない。中枢神経系、末梢神経系、あるいはその両方に生じ、多発性硬化症、視神経脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎が代表的疾患である。脱髄を病理学的に証明するには、髄鞘染色と軸索染色を行う必要がある。髄鞘染色で見られる髄鞘淡明化(myelin pallor)は、単に髄鞘の染色性低下を表現しているだけで、髄鞘淡明化≠脱髄であることに留意が必要である。プリオン病も感染症に分類されるが、中枢神経系に炎症細胞浸潤は認められない。クロイツフェルト・ヤコブ病が代表的疾患であり、海綿状変化(spongiform change)、グリオーシス(特に肥胖性アストロサイトの増生)、神経細胞脱落、神経線維網の粗鬆化が特徴的な病理所見である。血管の増生や神経食現象が認められないことも特徴である。免疫染色を施行すれば、異常プリオン蛋白の沈着が灰白質に認められる。
7月8日(土) 13:50-16:20 Room B
3SY④-2
認知症(アルツハイマー病、タウオパチー)
Dementia (Alzheimer disease, tauopathy)

齊藤 祐子
東京都健康長寿医療センター
Yuko Saito
Dept. Neuropath. Tokyo Metro. Instit. for Geriat. and Gelontol., Tokyo, Japan

認知症の背景病理は様々であり、高齢者になるほど、複数の疾患が合併しやすい。タンパクをターゲットとした創薬のために、背景病理を早期に診断するために、我々は、臨床症状・バイオマーカー・病理の積み重ねを行っている。また病態解明のための死後脳リソースを提供では、解明する目的に合った病理像を呈する例を選出し、基礎研究者のデータの精度を上げる必要がある。そこで本講演では認知症の大半を占めるアルツハイマー病とタウオパチーの病理について基本的なことを呈示したい。まずアルツハイマー病であるが、アミロイドβタンパクとリン酸化タウタンパクが加齢に伴って脳に出現する以上にある一定レベルを超えると、神経細胞死を生じ、次第に認知機能、特に記憶力の低下という形で症状を呈して来る。近年のアミロイドPETや髄液バイオマーカー測定から、アミロイドβはタウに先立ち蓄積し、両者が老人班、神経原線維変化、ニューロピルスレッドという形で形態的に可視化され、神経細胞死が生じ始めるとされる。一方で、1990年後半に、異常にリン酸化されたタウの沈着のみにより、認知症を引き起こすことが明らかとなり、現在ではprimary age related tauopathy(PART)とされる病態や、嗜銀顆粒性認知症という、アルツハイマー病やPARTで見られる神経原線維変化とは異なる形態で脳に沈着する疾患も次々と報告されるようになった。これはタウタンパクの遺伝子異常により、家族性の認知症が発見されたことが発端となった。他に大脳皮質基底核変性症や進行性核上性麻痺や、Pick球を伴うPick病などが含まれる。また、従来ボクサー脳症として知られてきた、慢性外傷性脳症も注目されている。
7月8日(土) 13:50-16:20 Room B
3SY④-3
神経変性疾患1 (シヌクレイノパチー)
Neurodegenerative disease 1 (synucleinopathies)

三木 康生
弘前大学脳神経病理学講座
Yasuo Miki
Department of Neuropathology, Hirosaki University

神経変性疾患では細胞内に病理学的特徴とされる封入体を形成する。この封入体を構成する異常タンパク質に基づいて神経変性疾患が近年再分類され、αシヌクレインが細胞内に蓄積する疾患群 [パーキンソン病 (PD)、レヴィ小体型認知症 (DLB)、多系統萎縮症 (MSA)] をシヌクレイノパチーと呼ぶ。レヴィ小体病 (PDとDLB) は神経細胞内にレヴィ小体の出現を特徴とし、レヴィ小体はその形態から脳幹型、皮質型、神経突起内レヴィ小体の3つに分けられる。PD剖検脳では肉眼的には黒質ならびに青斑核の色素脱失を認め、メラニン含有神経細胞は高度に脱落している。PDにおいてαシヌクレインの蓄積は迷走神経背側核と嗅球に始まり、脳幹を上行し、その後大脳皮質に広がるとされ (Braak仮説)、約90%がその進展様式に一致する。しかし、レヴィ小体病全体で見るとその一致率は50%に低下し、αシヌクレインの伝播方式は一様ではない。一方、MSAでは、線条体黒質系、オリーブ橋小脳系、自律神経系が種々の程度と組み合わせで変性し、αシヌクレイン陽性グリア細胞質内封入体の出現を病理学的特徴とする。このグリア細胞質内封入体は変性部位に特に多く認められるが、中枢神経系に広く分布する。また、αシヌクレインの蓄積はオリゴデンドログリアの核内、神経細胞質内や核内にも少ないながらも認められ、レヴィ小体病とは異なる。さらに、レヴィ小体病とMSAに蓄積する異常αシヌクレインの構造、背景にある加齢性変化、合併病理の特徴も異なる。本講演では、シヌクレイノパチーの一般的な病理学的特徴だけでなく、レヴィ小体病とMSAの病態の違いにも焦点を当てる。
7月8日(土) 13:50-16:20 Room B
3SY④-4
神経変性疾患2 (運動ニューロン病、ポリグルタミン病)
Neurodegenerative disorders 2 (Motor neuron diseases and polyglutamine diseases)

他田 真理
新潟大学脳研究所病理学分野
Mari Tada
Dept. of Pathol., Brain Research Institute, Niigata Univ.

本単元では、代表的な神経変性疾患である運動ニューロン病とポリグルタミン病を題材として、神経変性疾患の病理像の特徴について概説する。神経変性疾患の組織像には2つの大きな特徴がある。一つは病変の解剖学的系統の選択性であり、もう一つは異常蛋白の細胞内蓄積である。神経変性疾患では、疾患ごとに神経経路や機能によって結びついている特定の系統が障害される傾向がある。また、多くの神経変性疾患において、疾患特異的な異常蛋白が神経細胞やグリア細胞の細胞内に蓄積し、疾患病態に深く関わっている。運動ニューロン病の代表的疾患である筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は、上位・下位運動ニューロンの選択的な障害により筋力低下と筋萎縮をきたす。組織学的に、運動野から脊髄・脳幹の下位運動ニューロンに至る運動経路の変性が特徴である。核蛋白であるTDP-43が異常リン酸化され、神経細胞やオリゴデンドロサイトの胞体内で凝集する。一方、ポリグルタミン病は原因遺伝子の翻訳領域内CAGリピートの異常伸長により生じる疾患群で、7つの遺伝性脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia: SCA)とハンチントン病、球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy: SBMA)が含まれる。SCAでは小脳とその入出力路、ハンチントン病では皮質基底核回路、SBMAでは下位運動ニューロンを中心に変性が認められ、臨床症候に応じた変性の広がりが観察される。ポリグルタミン病では、異常伸長CAGリピート由来のポリグルタミン鎖が神経細胞の核内や細胞質内に封入体を形成することが共通する特徴である。