神経回路機能の遺伝子操作と制御に向けたウイルスベクター技術
EL5
神経回路機能の遺伝子操作と制御に向けたウイルスベクター技術
○小林和人1
○Kazuto Kobayashi1
福島県立大学附属生体情報伝達研究所・生体機能研究部門1
Department of Molecular Genetics, Institute of Biomedical Sciences, Fukushima Medical University1

脳の高次機能の仕組みや神経・精神疾患の病態機序を理解するためには、行動を媒介する神経回路メカニズムの解明が必須である。この目的を達成する有益な方法として、遺伝子改変技術を応用し、特定の細胞タイプや神経路の機能を改変する手法が開発されてきた。種々の導入遺伝子を用いて、標的の細胞除去、神経伝達抑制、光刺激や化学物質による神経活動の制御などが可能となる。これらの遺伝子を神経細胞に導入するために、ウイルスベクターは有益な技術を提供する。我々の研究グループは、高頻度な逆行性遺伝子導入(highly efficient retrograde gene transfer : HiRet) あるいは神経細胞に特異的で高頻度な逆行性遺伝子導入(neuron-specific retrograde gene transfer: NeuRet) を示すベクターを開発した。HiRet/NeuRetベクターは、神経終末より導入され、軸索を逆行性に輸送された後、遠方に局在する細胞体において導入遺伝子の発現を誘導する。これらのベクターを特定の脳領域に注入することにより、そこへの入力経路に導入遺伝子の発現が誘導できる。一部の入力領域に細胞除去あるいは活動を制御する因子を注入することにより、経路選択的な機能の改変が可能となる。また、HiRet/NeuRetベクターを細胞体から導入される順行性ウイルスベクターと組み合わせ、Cre-loxP系やテトラサイクリン依存性転写活性系を応用することによって、経路選択的な遺伝子の活性化やその抑制も可能となる。本技術は、細胞タイプに選択的に機能するプロモーター領域を必要とせず、直接、神経細胞へ遺伝子導入できるため、齧歯類ばかりでなくマカクザルやマーモセットを含む霊長類モデルを用いた研究にも有益である。HiRet/NeuRetベクターの特徴を解説し、これらの神経回路機能研究への応用例について紹介する。


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