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シンポジウム
04 産学連携シンポジウム
04 Industry-Academia Collaboration
座長:松元 健二(玉川大学脳科学研究所)・茨木 拓也(NTTデータ経営研究所)
2022年7月1日 9:10~9:30 沖縄コンベンションセンター 会議場A1 第2会場
2S02m-01
メタバースにおける人間計測・拡張技術の新展開
Future Development of Human Sensing and Augmentation Technology in Metaverse

*杉本 麻樹(1)
1. 慶應義塾大学
*Maki Sugimoto(1)
1. Keio University

Keyword: Metaverse, Sensing, Human Augmentation

バーチャルリアリティ技術の発展に伴って、メタバースを活用することで多様なコミュニケーションの実現が可能であることが示されている。本演題では、こうしたメタバースにおいてソーシャルインタラクションを実現するための計測技術や、バーチャル環境において私たちの身体を拡張する試みについて紹介しながら、今後のメタバースの可能性について概観する。 メタバースは、多数のユーザが体験するバーチャル環境を接続することによって、人々がバーチャル環境内での相互コミュニケーションや、社会的な関係性を築くことを可能とするものである。消費者市場における頭部装着型ディスプレイ(Head Mounted Display: HMD)の普及に伴って、一般のユーザが気軽にメタバースに参加することができるようになってきている。 一方で、普及の進むメタバースの構築技術においては、標準化された頭部や四肢の限定された運動を反映することが一般的であり、感情などの細やかな情報を計測・共有する技術については、技術的な課題が残されている。そこで、本講演では、こうした技術課題を解決するために講演者らの研究グループが取り組んでいるユビキタス光センシング技術を用いた、HMD内部での表情推定技術について紹介するとともに、メタバースにおけるソーシャルインタラクションの可能性について考察する。 また、メタバースにおいては、ユーザは生得的な身体と同一のアバターを使用するのみではなく、運動や感覚・知覚を拡張したアバターを使用することができる。本講演では、メタバースにおいてユーザが装着型の身体拡張機構を装着したアバターを操作する事例や、複数の身体で構成されるアバターに分身して活動する事例についても紹介し、メタバースを活用した人間拡張の可能性についても議論する。 以上の様に、本講演では、メタバースにおける計測技術と人間拡張の試みの事例を通じて、メタバースを活用した研究の可能性について述べる。
2022年7月1日 9:30~9:50 沖縄コンベンションセンター 会議場A1 第2会場
2S02m-02
メタバースにおける自己変容とその神経基盤
Transformation of self in the metaverse and its neural basis

*宮脇 陽一(1)
1. 電気通信大学
*Yoichi Miyawaki(1)
1. The University of Electro-Communications

Keyword: supernumerary limb, embodiment, functional magnetic resonance imaging, body editing

ヒトや動物が生物学的自己をどのように認識し制御するか,そして自己を取り巻く物理的現実世界をどの様に認識し行動するのか,そのメカニズムを解明することは神経科学における大きな研究目的のひとつである.一方,バーチャル空間あるいは実環境で自己の改変を可能にする技術の登場や,バーチャル空間と現実世界を融合させたり,あるいはそもそも現実世界と全く異なるバーチャル空間を生成したりする技術の発達により,「自己」および「現実世界」として扱うべき対象が変化し,拡張しつつあるという現状がある.脳機能の進化や発達は,自己の身体とそれを取り巻く環境という制約に適応することを目的としたものであると考えるならば,メタバース化とでも言うべき新技術によってそうした制約が取り払われたとき,自己身体や環境に対する認識, そしてそれに応じた行動はどう変容するのだろうか?こうした新しい問いに挑むべく,我々の研究グループは身体性変容とその神経基盤の基礎解明に取り組んでいる.本講演ではこうした研究成果の一例として,ヒトが生得的に持たない人工身体部位である「第6の指」の身体化を紹介する.従来の類似研究は,そうした人工身体を制御するために他の身体部位の動きを利用するものであったが(例えば人工指を動かすために足を動かすなど),この「第6の指」はそうした必要がなく,他の身体部位の動きと独立した制御が可能であり,真に独立して付加可能な新しい身体部位となる.これまでの実験で,こうした独立身体部位に対しても1時間程度の順応で自己身体所有感を獲得できることが分かっている.また機能的磁気共鳴画像(fMRI)実験においては,順応前後において「第6の指」を接続した手の対側中心溝付近での活動変化を捉えつつある.こうした身体性変容の研究は,バーチャル空間内ではさらに自由に実現でき,伸縮可能な手や,透明化された身体がどのように知覚されるかといった研究も進んでいる.身体性変容に関するこうした基礎研究成果の紹介を通し,メタバース技術を利用した新しい自己そして環境への適応過程,さらには人間がどこまで柔軟に新しい自己や環境を受容できるのか,その限界へと迫る新しい神経科学の可能性について議論したい.
2022年7月1日 9:50~10:10 沖縄コンベンションセンター 会議場A1 第2会場
2S02m-03
メタバースと精神医学
Metaverse and Psychiatry

*小林 七彩(1)
1. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
*Nanase Kobayashi(1)
1. Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University

Keyword: metaverse, Psychiatry, gaming disorder

メタバースはゲームを足掛かりとして発展し、その中で、エンターテインメントだけではなく、学校生活や仕事、家庭生活など、生理的欲求以外の全てがオンライン上で実現可能な技術が期待されている。メタバースの発展により生活様式が一変すると、精神疾患の多くは「社会生活上の支障が生じている」ことが診断基準に含まれるが、学び方、働き方、対人交流の仕方に多様性が生じ「社会生活」の概念が変化することによって、さほど生活に支障をきたさなくなってくる精神疾患と、悪化に気をつけなければならない精神疾患とが予想される。 
 メタバースによる精神保健分野への影響は、新型コロナ感染症流行下でオンライン授業やテレワークが盛んになったことによる精神症状の変化や、オンライン診療や医療現場でのアプリの活用など治療アプローチの変化等からある程度予測が可能である。 
 対面で人と接することや外出することに抵抗を感じる方にとっては、人との接触が減り、自宅から社会参加が可能となるため、仕事のストレスが減ったとの声は多く聞かれた。一方で、対人交流により自身の精神衛生を保っていた方にとってはストレスの多い生活となり、その結果、アルコールやゲームといった依存症・行動嗜癖の悪化や、抑うつ症状や不安症状の悪化などを認めるケースもあった。ゲーム障害を例に挙げると、オンライン授業が普及し、勉強と娯楽のいずれも電子機器を使用するため、ゲームと適切な距離を取ることが難しくなった。そのため授業を受けようとしてもついゲームをしてしまい、留年するなどの学業への支障が生じて外来を受診する例が増え、感染症流行前と比較しても外来受診者は増加傾向であった。発達障害をもつ患者も、自身で計画的に課題をこなすことが難しく、大量に出された課題がこなせずに大変苦労していた。一方で、不登校が長期化していた方が、オンライン授業であれば一部参加が可能であり、社会参加のための良いリハビリテーションになった例も認めた。外出が困難な患者にもオンライン診療であればアプローチが可能であったり、スマホアプリなどIT技術を用いた検査や治療介入のアプローチも広がるなど、新たな予防、検査、治療の可能性も広がってきている。 
 臨床での経験を通して、メタバースに関して、精神保健分野での有用性と注意点、その対策について考察する。
2022年7月1日 10:10~10:30 沖縄コンベンションセンター 会議場A1 第2会場
2S02m-04
現実を科学する
Reality Science

*藤井 直敬(1,2,3,4,5)
1. 株式会社ハコスコ、2. デジタルハリウッド大学、3. ブレインテックコンソーシアム、4. XRコンソーシアム、5. 東北大学
*Naotaka Fujii(1,2,3,4,5)
1. Hacosco inc, 2. Digital Hollywood University, 3. BrainTech Consortium, 4. XR Consortium, 5. Tohoku University

Keyword: metaverse

サイエンスにおける実験環境の統制と再現性は必須だと考えられています。特定の仮説を検証するためには、不必要な変数の影響を避ける必要があるので当然のことです。しかしながら、そのようなクローズエンド環境の積み重ねで世界を記述し尽くすことが難しいことは明らかです。むしろわたしたちが暮らしている世界は再現不可能なオープンエンド性に満ちています。そのようなオープンエンド性に満ちた現実環境を実験環境として利用するにはどのようにすれば良いのでしょうか。一つの可能性として、現実そのものを人工的な現実空間に置き換えてしまうという考え方があります。もし、人工的な現実環境が現実環境と主観的に違いがわからないのであれば、その環境を実験空間とすることで、環境情報の全てを定量的に扱えることが出来ることになります。それは現実空間では不可能なことです。また、近年日常空間での脳活動を計測可能にする多様な機器が現れてきており、それらを使うことで従来実験室内でしか出来なかった研究が、少しずつ日常環境でも可能になってきています。科学はヒトの世界をゆたかにするものであって欲しいと思います。神経科学がわたしたちの日常に必要である知識や技術になるためには、一人一人がその知見を自分自身の日常をゆたかにするための必須のものと感じてもらえるようにすることが重要です。そのためには、神経科学にもとづく技術やツールが、自分自身の脳を理解するために使われることが必要なのではないでしょうか。言い換えると、鏡を見て自分の外見を理解するように、脳活動を可視化することで自分自身の脳と向き合うことが当たり前になるようなツールはスマホと同じような必須のツールになる可能性を秘めています。そのような意味で、現実というものを再定義し、再現かつ操作可能な空間として利用すること、そして自分自身の脳と向き合うという二面からアプローチすることで、複雑極まりないヒトと社会をより深く理解することが可能になるでしょう。神経科学にオープンエンド性を積極的に取り入れることで、これまで見えなかった社会貢献への道筋が開かれるのではないでしょうか。