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一般(口演)
神経ネットワーク、認知機能・行動
1C-一般2-1
複雑性悲嘆においてサブリミナル悲嘆刺激は共感性疼痛を促進する
吉池 卓也1,2,中島 聡美1,本間 元康1,池田 大樹1,大村 英史1,淺野 敬子1,金 吉晴1,守口 善也3,栗山 健一1,2
1国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部,2滋賀医科大学精神医学講座,3国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部

複雑性悲嘆(complicated grief:CG)は近親者との予期せぬ死別を機にしばしば生じる、大うつ病及び心的外傷後ストレス障害の近縁病態である。故人との死別に関連付けられた限定的な悲哀・固執を臨床特徴とし、時に故人の白昼夢が生じる。他方で、故人を除く事象に対しては興味・関心を失い、故人との関係性の再編成を主眼とする精神療法が有効であるが、CGの生物学的病態基盤は明らかにされていない。本研究はCGがミラーニューロンネットワーク障害による共感性の偏りを有するかを神経生理学的に検討した。近親者との死別から13か月以上経過し、大うつ病と心的外傷後ストレス障害を除く精神・身体疾患を示さず、Inventory of Complicated Grief(ICG)総得点が25点以上の成人10名(CG群)を、ICG総得点が25点未満のnon-complicated grief(NG)群18名と比較した。Beck Depression Inventory-II(BDI-II)により抑うつ症状を評価した。手指や手背に注射針が刺さった画像を視覚疼痛刺激とし、その直前に3カテゴリー(故人、存命の家族、他人)の顔写真のうちいずれかをサブリミナル刺激として提示した。心理的疼痛強度の評定及び機能的磁気共鳴画像を用いた事象関連脳活動の計測により、共感性疼痛に与える悲嘆及びサブリミナル刺激(遺族からみた関係性)の影響を評価した。疼痛強度に対する悲嘆と関係性の交互作用が認められ(F2,52=6.14;p=.004)、故人条件において、CG群はNG群より強い疼痛を表出した(p=.005)。他方、NG群では他人条件が故人条件より強い疼痛を誘導した(p=.026)。全群において故人条件の疼痛強度は、ICG総得点(r=.510;p=.006)及びBDI-II総得点(r=.535;p=.003)と正の相関を示した。CGにおいて、故人刺激により共感性疼痛が促進される一方、他人刺激による共感性疼痛の促進が認められなかった。これは、CGでは故人への注意亢進が重要な病態機序であることを示唆するのみならず、他人への注意が選択的に低下することが、CGの社会性低下の一因となる可能性を示唆する。他方、併存する抑うつ症状が悲嘆症状とともに共感性疼痛を促進する関係性は、大うつ病における先行研究が示す、抑うつ症状が共感性疼痛を減弱することと対照的であり、CGが大うつ病とは異なる精神病理構造を有する可能性を強く示唆する。故人への注意亢進の修正のみならず、他者への共感性の回復を促すことがCGの治療上、有効である可能性が示唆される。
1C-一般2-2
プラセボ・ロラゼパム投与時の恐怖感情認知脳内ネットワークと不安軽減度の関連:機能的MRI研究
肥田 道彦1,長谷 武志2,3,濱 智子1,4,池田 裕美子5,八幡 憲明6,舘野 周1,高橋 英彦7,松浦 雅人8,鈴木 秀典5,大久保 善朗1
1日本医科大学精神医学教室,2システム・バイオロジー研究機構,3理化学研究所 統合生命医科学研究センター 統合計測・モデリング研究部門,4文京学院大学,5日本医科大学薬理学講座,6東京大学精神神経科,7京都大学精神神経科,8東京医科歯科大学

【背景と目的】ロラゼパムは、不安を軽減するため広く用いられている抗不安薬である。機能的MRI研究では、抗不安効果により意思決定課題や顔の表情認知時の脳賦活が減少するという。しかし、我々の知る限り、感情認知時の機能的結合に対する抗不安薬の効果については十分に検証されていない。我々は、プラセボ及びロラゼパム内服時の恐怖感情認知・脳内ネットワークと不安低減度の相関について検証を行った。【方法】日本医科大学付属病院倫理委員会により承諾の得られたプロトコルへの説明と同意の得られた24名の健常対照群にプラセボ内服時、ロラゼパム内服時の機能的MRIの撮像をおこなうランダム化比較試験を実施した。各被験者は2週以上間隔をあけて実験に参加した。被験者はプラセボ又はロラゼパムをそれぞれ実験開始2時間前に内服し、MRI撮像時に音声感情音を聴取したときの感情価について陽性・中性・陰性のいずれかを判断した。プラセボ群・ロラゼパム群における感情処理時の機能的結合をStatistical Parametric Mapping(SPM)を用いて解析した。また、ビジュアル・アナログ・スケールを用いて不安軽減度を数値化し、機能的結合との相関を解析した。【結果】1.プラセボ内服時、不安軽減度と恐怖感情に対する機能的結合が正の相関を示した部位、つまり不安軽減により恐怖感情の脳内ネットワークが増強した部位は、左右後頭皮質間、及び、左紡錘状回と右鳥距溝間であった(P<0.005)。一方、2.負の相関を示した部位、つまり不安軽減により恐怖感情の脳内ネットワークが減弱する部位は、右Heschl横回と右下側頭葉、左中心傍小葉と右島皮質、右角回と右弁蓋部間であった(P<0.005)。3.ロラゼパム内服時に不安軽減度と恐怖感情に対する機能的結合が正の相関を示した部位、つまり不安軽減により恐怖認知ネットワークが増強した部位は、左中側頭葉極と左右直回、左中側頭葉極と左下前頭回弁蓋部の間の機能的結合であった(FDR:P<0.30)。一方、4.負の相関を示した部位、つまり不安軽減により恐怖認知ネットワークが減弱した部位は、左嗅覚野と左右後頭葉、左被殻と左前頭眼窩野、左淡蒼球と右中前頭回間を含む広範な機能的結合であった(FDR:P<0.30)。【結論】我々の知見から、プラセボ・ロラゼパムともに不安軽減により独自の恐怖感情処理時の脳内ネットワークを変化させることが確かめられた。特にロラゼパムでは、左レンズ核・前頭眼窩野間を含む広範な機能的結合を変化させることが確かめられた。
1C-一般2-3
無動性無言症のニューラルネットワークの検討―脳波紋の視点より―
瀧川 守國,鹿井 博文,今村 圭介
医療法人 公盡会 出水病院 精神科

近年脳ニューラルネットワークがデフォルトモード神経回路網(default mode network:DMN)をはじめとしてfMRIにより脳の高次機能との関係で検討されている。著者らは、一般に植物状態と云われる特殊な意識障害即ち無動性無言症(Akinetic mutisum:AM)を新しい脳波の解析法である脳波紋で検討しその異常を指摘する。なお利益相反はなく被験者のプライバシーに留意した。<対象と方法>対象は一般に植物状態と云われる特殊な意識障害がX-4年続いた70歳代の症例で、知的意識活動を示さず、話さず、動かず等の症状が経年的に続いた症例である。解析法としては、新しい脳波紋の手法を導入した。1.この利点は、信号の時間成分と周波数成分の両方を同時に抽出することが可能である。2.脳波を微分すると速波帯域が強調される事を利用して微分脳波を可視化して高域周波数帯域も併せて調べた。<結果>脳波紋では、DMNの中枢(hub)を形成するとされる左前頭(3ch)と後頭部(9ch)の両部位の脳波紋を時系列的ホルマントを健康成人とAMで対比した。健康成人では、安静閉眼の左脳の3と9chにα帯域(9~13Hz)のホルマントが著明であった。これを微分脳波紋でみるとβ帯域が脳波紋のネットワークとして可視化がみられた。これに対し、光刺激を与えると、このような現象が増幅可視化された。これに対し、植物状態のAMでは,安静閉眼時10Hz以下のθ(4~6)とδ(1~3)で脳波紋ホルマントが出現し、微分脳波紋では一挙にβとγ帯域に断片的な滅裂なホルマント構造が出現した。<考察>時間分解能に優れたEEGを脳波紋というEEGをホルマント構造で可視化し神経回路網の異常から検討した。この新しい解析法である脳波紋により植物状態(AM)は神経回路網のdisconnection syndromeが示唆された。
1C-一般2-4
ヒト胎盤製剤ラエンネックによるアルツハイマー病モデルマウスの記憶障害改善作用
東田 千尋,小暮 智里
富山大学・和漢医薬学総合研究所・神経機能学分野

【目的】当研究室では、破綻した神経回路網を再構築することがアルツハイマー病(AD)の記憶障害改善に有効だと考え、これまでにいくつかの植物性生薬から活性化合物を同定しそれぞれの作用機序の解析を行ってきた。我々は、それら低分子化合物の研究から示されるメカニズムとはまた異なる、抗認知症メカニズムを探る目的で、比較的高分子ペプチド成分も含有されているとされるヒト胎盤エキスに注目した。ラエンネックは肝機能改善を効能とした医療用ヒト胎盤製剤である。本研究では、ラエンネックによるADモデルマウスの記憶障害改善作用を検討し、その活性成分を同定することを目指した。【方法】ヒト胎盤抽出物ラエンネック(日本生物製剤)を用いた。1)ADモデルマウス(5XFAD、雌性、5-7ヶ月齢)に対し、ラエンネック(100 mg/kg/day)を15日間、腹腔内投与あるいは経口投与し、最終投与後に物体認知記憶試験を行った。2)マウス胎児(ddY、E14)の大脳皮質神経細胞を初代培養した。培養3日後にAβ25-35(10 μM)を処置し、その3日後にラエンネックを処置した。4日後にpNF-H抗体陽性の軸索とMAP2抗体陽性の樹状突起の長さを定量した。【結果】1)5XFADマウスの溶媒投与群は物体認知記憶の障害を生じていたが、ラエンネック投与群では腹腔内投与においても経口投与においても改善効果を同程度に示した。2)Aβ処置により軸索及び樹状突起の密度が低下したが、ラエンネック(1,10 μg/ml)処置群では樹状突起密度のみが有意に回復した。ラエンネックを分子量により分画した。10 kDa付近の分画に樹状突起伸展作用が認められた。この分画のタンパク性成分をnano LC-MSにより解析したところ、collagen alpha-1(I)chainが断片化したフラグメントの混合画分であることが示唆された。またそのフラグメントの中に認められる特徴的なショートペプチド配列に着目し、そのショートペプチド自体に記憶改善作用があることも見出した。