委員会

委員長便り

【日本神経化学会】委員長だより(将来計画委員会)

第63回大会を終えて
将来計画委員長として、大会実行委員として、2020年の大会に参加しました。単独大会ですので、もとから参加人数が少ないことは分かっていました。そこにコロナの襲来があり、大会は完全web開催を余儀なくされました。Web開催を余儀なくされるのは、神経化学会だけではなく、世界中あらゆる学会に課されたことです。全く同じ条件を与えられたときに、この学会がどう力を発揮するのか、学会員が何に気付くのか、そんな視点で私は臨みました。
参加できるシンポジウムは常に1つです。一流研究者を数多く呼んでも、それを併走させては消化不良に陥ります。今回のようにシンポジウムの数を絞り、そこになるべく多くの人が集まるのは理にかなっています。Gordonやcold spring harbor meetingが輝き続けるのは、超一流研究者が一同に会すること、かつ一会場で運営されることによる密集効果だと思います。
それでは、神経化学会がやれるのかという問いですが、今回のミクログリア祭りという試みは、その可能性を高めました。また大会長はミエリンの専門家ですから、ミエリンに関する演題が多く、Klausによるplenary lectureも今回の大会を特徴付けました。
これは将来計画委員長としての提案ですが、各大会を、大会長および大会実行委員、シンポジウム企画委員とで、特色を存分にだせるようにしてはどうでしょうか。これに伴うこととして、当然何かを切らなくてはなりません。シンポジウムの公募をお願いしながら、それをrejectするということは大会側としては苦しいことですが、その痛みを乗り越えて広く薄い大会と決別する覚悟が必要ではないでしょうか。応募する我々側も、採択されなかったからと言ってふてくされることなく、縁が無かったと割り切って大会を楽しむ度量が必要でしょう。
現在自分は、線条体を中心とするシステム神経化学(本当はシステム神経科学)を中心に研究を進めています。そんな自分であっても、本大会になるべく多く参加してみると、多くの発見がありました。学会では、自分の分野にかかわるところに網をはって情報をえることに加えて、自分の分野と遠いところから気付きをもらうという2つがあると思います。
むしろ、後者の方が重要と考える会員も多いでしょう。だからこそ、SfNなどのマンモス学会が受けるわけです。とはいえ、小さな神経化学会でも本気で出席すれば、気付きを得ることができます。実際、色々なことに気付きました。色々なことの中には、学術的なことだけではなく、伸び盛りの若手を発掘したということも含まれます。
皆さんは、本気で本大会に参加したでしょうか。Web開催の長所・短所として、旅費・交通時間をゼロにすることは長所に相当しますが、本務と学会参加の線引きが難しくなるという短所も存在します。学会に参加する目的は、現地の食・文化を味わう、日頃の激務から逃避する、誰々さんと会いたい、など人それぞれです。ですが、将来計画委員長として皆さんにお願いしたいのは、「関心をもつ」ことを目的として欲しいです。
口頭発表・ポスター発表をしても、だれからもコメントをもらえない、という経験はその参加者を当学会から遠ざけることになりますし、その逆に大会に参加された皆さんが、片っ端から各発表にinteractiveにコメントを残していけば、そのコメントを頂戴した参加者はまた発表したいとなるでしょう。これはどの学会でも同じことですが、学会員の横の関係も縦の関係も密な当学会は、これまで以上に「関心をもつ」ことに取り組んで欲しいと思います。Web開催は現在も続いており、e-ポスターなどのオンデマンド視聴やコメント欄は9月26日まで利用可能です。
理事会などでの議論で、育成セミナー、道場に次ぐ第三の矢を模索しています。具体的には、育成セミナー、道場経験者である準PIをどうやってencourageしていくかという人材育成の方法です。学生から若手PIまで若手研究者を見ている、見守っている、一緒に研究を楽しもうという学会からのメッセージは、大会に参加した皆さんが、「本気で」各発表で質問をする、コメントを残すことに他なりませんか?
一般業務の合間に学会に参加して、各発表にコメントを残すのは無理だと思います。時間がありませんから。「本気で」参加して欲しいとはまさにこのことで、自分の貴重な時間を、若手にあげること、若手と共有することではないでしょうか。
そしてその行為が、「関心をもつ」ことになると思います。
学会の将来を考える委員の委員長である私は、コロナ禍で「将来なんて考えられない」と思考停止になりました。ですが、本大会に参加して改めて認識したことは、
・今後も、分子と疾患というキーワードに向かって突っ走ってよい
・若手を育成する、若手に付き合うとは、シニアの時間を奪うことに他ならないが、シニアはその時間を捻出して気前よくあげるべき
この2点になると思います。研究力の高い若手も出てきました。Plenaryで質問する学部生も出てきました。シニアは楽しんで人材を育成する、若手も楽しんで大人と付き合う。この楽しみの連環を維持できる仕組みをつくるのが将来計画委員会と思うようになりました。引き続き、よろしくお願いします。


将来計画委員会  
田中謙二


(2020年9月16日)