小泉 修一 2019/3-2021/3

理事長挨拶

 この度、和田圭司前理事長の後任として、伝統ある日本神経化学会の理事長を拝命いたしました山梨大学・医・薬理の小泉修一です。日本神経化学会は、「神経化学」を標榜する世界で最も古い学会として、発足当初から今日まで、世界の神経化学をリードしてきました。また基本理念として「化学物質・分子により脳の仕組み及び疾患のメカニズムを解き明かす」を掲げ、これもぶれることなく続いております。さらにこの理念実現のために、徹底した「深い議論」及び「若手育成」をポリシーとして活動を行って参りました。このように、これまでの会員の皆様、理事の先生方、委員長、委員を務められた先生方のおかげで、日本神経化学会は脳の研究領域のなかに一つの大きな流れを作ってきたと思います。私は、日本神経化学会に育てて頂いたと思っておりますし、本学会の基本理念に強く賛同しておりますので、これまでの大きな流れは今後も変えません。しかし、さらなる発展を目指して、変えるべき点は勇気をもって改革していこうと考えております。今期は「伝統の継承と改革」を旗印に、日本神経化学会を先導していく覚悟であります。ちょうど私の理事長就任時期が、平成が終わり新しい元号を迎える時期と重なりました。平成の総括などという大それたものではありませんが、昭和、平成を経て日本神経化学会が新しい時代に引き継ぐべきこと、改革すべきことを、新しい執行部、理事の先生方、委員会の先生方と、しっかり議論し、実行に移したいと思います。今季の執行部にはフレッシュな顔ぶれがそろいました。様々な改革のためにはベストなメンバーだと思います。私を含め経験不足の面は否定できませんが、幸い理事長経験者をはじめ、経験豊富な先生方が多数理事として残ってくださいました。フレッシュな力と経験とを融合させて、伝統ある日本神経化学会の新しい時代を築いていきたいと思います。

 和田前理事長は、学会の透明化、財政の健全化、学会のブランド化を大きな目標として、大きな成果をあげられました。例えば、「理事長だより」として頻繁な情報発信、大会中の理事長と直接お話ができる環境作り等々により、学会の透明化が大きく前進いたしました。これは、学会のブランド化にも大きく貢献いたしました。また大会プログラムに「若手道場」等を定着させる等により、「深い議論」及び「若手育成」で大きな面で大きな改革を成し遂げました。私も、和田前理事長の方針はしっかり「継承」いたします。そして、次へのさらなる発展を目指して、改革と途切れの無い活動を進めてまいります。

 具体的なお話は、和田前理事長から引き継ぎます「理事長だより」にて、随時発信して参ります。一点だけ「改革」について申しますと、日本神経化学会としての情報発信力をより強化したいと考えています。例えば、学会ホームページも充実してまいりましたが、まだサイエンスのポータルサイトとしての役割には至っておりません。コンテンツ、使いやすさ、さらに更新頻度・タイミング等が関係する大きな作業になりますが、勇気と情熱をもって改革していきたいと思います。また、私は自身の研究でイメージングに力を入れております。今更ですが、情報発信において、画像、さらには動画の影響力の大きさは計り知れません。質の高いイメージングからは想像以上の情報が得られます。新しいイメージングプローブは、サイエンスの新しい分野を切り開く力もあります。学会からの情報発信においても、イメージングを強く意識して、会員の皆様の情報が、また学会の情報が効果的に伝わるよう、またサイエンスのポータルサイトとしての役割を果たせるよう、強化していきたいと考えております。もちろん、情報発信だけでなく会員の皆様の情報・声が学会にきちんと届く仕組みも新たに構築します。

 これらの実施には、会員の皆様方の協力と、学会の財政安定化が必要となります。和田前理事長、馬場前財務担当理事、澤本前出版広報担当理事らを中心にした徹底した財政改革により、学会の財政は大きく安定しました。今後は、支出の抑制だけでなく、収入を増やす手立てを積極的に考えるときに来ていると思います。こちらについては、また別の機会に情報発信することにいたします。最初のご挨拶として、最後に申し上げたいことは、会員の皆様のための日本神経化学会であるということです。会員であることで、皆様に満足していただける、納得していただけるような、またそれが本学会にポジティブにフィードバックされるような、会員の皆様と学会とのwin-winの関係を築いていくことが、私の使命と考えております。色々とご協力をお願いすることもあります。しかしそれらがすべて皆様に還元されるように、全力で努めてまいります。会員の皆様からの、叱咤激励、ご指導、さらに皆様方の積極的なご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。
 
2019年3月 
山梨大学大学院総合研究部
医学域・薬理学講座 教授
小泉 修一


 

理事長だより2019-2021

理事長だより No.10

2020年9月3日 14時22分

日本神経化学会
会員各位



新型コロナ、梅雨と豪雨、酷暑と、自然に翻弄される日々が続いておりますが、会員の皆様は如何お過ごしでしょうか?
9月を迎え、いよいよ第63回日本神経化学会八王子大会「議論で深める神経化学」が迫って参りました。非常に難しい状況のなか、大会長の馬場広子先生を中心に、組織委員会、プログラム委員会の先生方が、斬新なアイデアと果敢な行動力で準備を進めてくださいました。今回の日本神経化学会大会はWeb開催として行われます。
Webでの開催も含め、これまで63回の本大会の歴史の中で「初めての・・・」というイベントや試みが目白押しです。色んなことにチャレンジしていただいています。発表される方はもちろん、そうでない方も是非ともこの「新しい日本神経化学会大会」に参加して、一緒に「議論を深めて」頂ければと思います。いつもとは一味も二味も違う神経化学が体験できると思います。
また今回は、若手育成セミナーも従来の合宿形式でなくWebによる「新しい若手育成セミナー」です。合宿による密なコミュニケーションはできないかもしれませんが、Web形式ならではの楽しみ方もあります。一味違う若手セミナーを経験し、新しい楽しみ方を発見していただければと思っております。
今回のコロナ禍で、世の中の様々な事が変化し、また変化を余儀なくされました。従って、大会の方法が変わるのもある意味自然かと思います。変化は時に大きな痛みや苦痛を伴いますが、うまく乗り越えると思いもよらない大きな発展に繋がると思います。今回の大会が契機となり、本会が皆様にとってより有益、刺激的かつ心地よい会になっていくことを願っております。ただし、日本神経化学会のモットーである「分子・物質で脳を解き明かす・治療する」「議論を尽くす」「若手を育成する」は、変えることなく継承していきたいと思っております。

前回の理事長だよりは、新型コロナ騒動に触れるのみになってしまいましたが、今回はこれまでの1年数ヶ月を振り返りながら、今後の日本神経化学会について述べたいと思います。



1 情報の発信・受信の強化

今期の目標の1つが、学会の情報をきちんと発信・受信する仕組みを構築することでした。受信につきましては、HP上に「目安箱」を作りました。少しずつご意見を頂けるようになりましたが、まだまだ十分には活用されていないように思います。どんなご意見・苦情でも結構ですので、自由にお寄せ頂ければと思います。

情報発信につきましては、第1弾としてHP上に「特別寄稿」のコーナーを作りました。これまで日本神経化学会は、若手研究者育成セミナー、道場等を介し、若手研究者の育成に力を入れてきました。これにより本当に実力のある若手が育ってきていると思います。一方で、これまで日本神経化学会を作り、発展させて下さった先生方と若手が交流する仕組みが十分でないと感じておりました。温故知新というわけではありませんが、伝統ある日本神経化学会の「これまで」を知ることは、「今後」の発展に大きなプラスになると考えております。
私自身、本学会に入会して今年で34年目になりますが、本学会の創世期の事、その当時の先生方のご活躍等々、知らないことが沢山あります。そこで、出版・広報委員会の皆さんのご尽力により「特別寄稿」のコーナーを作って頂き、「私と神経化学」と題してリレー形式でメッセージを頂くことに致しました。
既に、御子柴克彦先生、永津俊治先生、遠山正爾先生、井上和秀先生から、大変素晴らしいご寄稿を頂いています。先生方の文書は、単に昔の日本神経化学会の様子が記載されているわけではなく、各先生の研究者としての哲学や生き様が力強く記されており、大変読み応えのある文章です。会員の皆様、特に若い世代の皆様には、是非ともお読み頂ければ大きな勇気と希望、さらに今後の指針を頂けるかと思います。今後も、色々な先生方に原稿をご依頼することになるかと思います。どうぞ思いの丈を存分に語って頂ければ幸いです。
また、他にも特別寄稿として永津俊治先生から「永田豊先生のご逝去を悼んで」、平山友里先生から「吉田慶多朗君を偲んで」の文書も頂いております。こちらも是非ともお読み頂き、それぞれの先生に再度思いを寄せて頂ければと思います。

また第2弾として、同じくHP上に「委員長だより」を作りました。これまで学会の活動や方針等は、主に理事長だよりとして発信をして参りましたが、学会活動は各種委員会の献身的な活動により成り立っています。しかし、各委員会活動の実際は意外と知られていないと感じていましたので、各委員長にも「委員長だより」として情報発信をお願い致しました。
既に6つの委員会委員長からご寄稿をいただいています。各委員会の活動報告にとどまらず、各委員長のメッセージや哲学が記されている大変味わい深い文書ばかりであります。こちらも是非ともお読み頂ければと思います。これらの発信により、日本神経化学会を良く知っていただき、より身近に感じていただければと思います。


2 若手育成

将来計画委員会及び若手育成委員会を中心にした若手育成セミナー、道場等の若手神経化学者を育成する取り組みにより、神経化学会の若手が着実に育っているのを実感しております。また、本会を好きになってくださる若手も増えているように思っています。
例えば、若手セミナーで活躍され、2019年度日本神経化学会奨励賞を受賞された吉田慶多朗先生(慶應大・精神神経科学)が、第10回日本学術振興会育志賞を受賞されました。本学会推薦による受賞でありますので本当にうれしいニュースであり、3月の理事会ではモニター越しですが受賞式も行いました。しかし大変残念なことに、吉田先生は6月に急逝されてしまいました。言葉もありません(「特別寄稿」の平山先生の投稿をご覧ください)。

若手の皆さんの活躍をサポートすることは、本学会の大きな柱の一つです。今後も積極的に応援を継続していきます。新型コロナ禍で、研究が思うように出来なくて焦っている若い研究者の皆さんもいらっしゃると思います。若手同士で意見を交換したり、学会が出来ることを話し合う機会を作りたいと思っています。是非とも自由にご意見を頂ければと思います。また今期は将来計画委員会を中心に、PIになる前の若手研究者(準PI)のサポートの仕組みについても考えていただいています。こちらも新しい魅力的な仕組みが出来ると思います、ご期待下さい。



3 学会運営の健全化

コロナ騒動以来、理事会、各種委員会等はWeb会議で行われております。しかし、本会はすでに昨年夏の理事会で、学会運営の健全化の一つとしてWeb会議化の推進について議論し、昨年秋から執行部会や各委員会はWeb会議の試運転を行って参りました。昨年からの準備等があったために、今回、各種会議のWeb会議化は大変スムーズであったと思います。新型コロナ感染症が収束した後も、各種会議はWeb会議を基本にいたします。もちろん、大会が対面式で行われる場合、また対面式がよりふさわしいと判断された場合には、その限りではありません。柔軟に対応していく予定です。

新型コロナウィルスとの戦いは長期戦になりそうです。これまでの経験やアイデアが通用しないことも沢山でて参りました。ポストコロナ、ウィズコロナの学会運営に際し、是非とも皆様の斬新で画期的なアイデアを沢山お寄せいただきたいと思います。特に若い会員の皆様、経験等は関係ありません。柔らかい頭で考えた面白い提案を沢山頂けると嬉しいです。しかし先ずは、会員の皆様が無事にこの難局を乗り越えること、さらに本騒動が一日も早く収束することをお祈りしたいと思います。


令和2年9月3日
理事長
小泉修一


「委員長だより」: https://www.neurochemistry.jp/C_letter/