タイトル
2006年度 奨励賞 田熊 一敞
概要

脳グリア細胞遅発性
神経細胞とともに脳を構築するグリア細胞は,神経細胞の支持細胞としてだけでなく,神経細胞との積極的な相互作用を通して神経細胞の生存・維持に深く関わっています.私の研究グループでは,グリア細胞の機能解明を通して神経脱落疾患の発現機構を追究する目的で,脳内の主要グリア細胞であるアストロサイトの病態的意義に関して一連の研究を行ってきました.その過程において,アストロサイトにおけるNa+/Ca2+交換系(NCX)の存在を見いだし,また,インビトロ虚血-再灌流モデルの一つであるCa2+パラドックス負荷によりNCXを介するCa2+過流入が惹起され,アポトーシスを伴う遅発性細胞死が起こることを明らかとしました.本障害の発現機構として,活性酸素の産生増加によるミトコンドリアからのチトクロムc遊離がカスパーゼ-3活性化のトリガーとして機能することを示し,その制御機構について,ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬イブジラストが保護作用を示すことを見いだしました.さらに,本保護効果の詳細を検討した結果,cGMP産生とそれに引き続くcGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)の活性化がその重要な下流シグナルであり,ミトコンドリア膜透過性遷移孔(mPTP)に対するPKGの抑制作用によって,アポトーシスが制御されるという全く新しい調節機構を発見しました.これらの知見は,ミトコンドリア機能低下により引き起こされるアストロサイトの遅発性アポトーシスが虚血性脳障害において重要な働きをもつことを示唆しています.実際にインビボの虚血性脳障害において,神経細胞のみならずグリア細胞のアポトーシスの関与が認められること,ならびに脳虚血-再灌流時にCa2+パラドックスと同様の細胞外Ca2+濃度変化が見られることより,私の研究グループが見出したアストロサイトの遅発性アポトーシスは,虚血性脳障害のメカニズムを追及するうえで有用なモデル系であると考えられます.
脳グリア細胞遅発性
アポトーシスの分子メカニズム
Molecular Mechanism of Delayed Apoptosis in Astrocytes
田熊 一敞 Kazuhiro Takuma
金沢大学大学院自然科学研究科 薬物治療学研究室
Laboratory of Neuropsychopharmacology, Graduate School of Natural Science and Technology, Kanazawa University
<概要>