神経化学トピックス

神経化学のトピックを一般の方にもわかりやすくご紹介します。
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12. ミエリンベーシックプロテインの局所発現を介したミエリン化の制御
   和気弘明(Nervous System Development & Plasticity Section, NICHD/NIH)
ミエリンベーシックプロテインの局所発現を介したミエリン化の制御
Control of Local Protein Synthesis and Initial Events in Myelination by Action Potentials.
Wake H, Lee PR, Fields RD.
Science. 2011 Aug 4. [Epub ahead of print]

DOI 10.11481/topics12
登録日:2017年2月9日

ミエリンの形成はオリゴデンドロサイトによって行われ、軸索を何層にも髄鞘化することによ
り神経伝達速度を50 倍まで速めることができる(参考文献1)。またこの軸索のミエリン化に
は軸索―オリゴデンドロサイト間のシグナル伝達が必要であることが知られている(参考文献
2)。しかしながら、この特定の軸索へのミエリン化が神経活動依存性に起こるかどうかはよく
しられていない。もしこのミエリン化が神経活動依存性に起こるのであれば、神経活動依存性
に神経伝達速度を速めることができ、経験依存性に脳の情報処理や発達を修飾することができ
る。

そこで本論文では、まず活動伝依存性の軸索からの神経伝達物質放出を小胞依存性と小胞非依
存性にわけ、オリゴデンドロサイト前駆細胞の機能的応答を調べた(参考文献3)。小胞非依
存性の神経伝達物質放出はオリゴデンドロサイトの分化させる働きがあることがわかった。

つぎに、ミエリンベーシックプロテインというミエリンを形成するたんぱく質のひとつに注
目し、オリゴデンドロサイトがどのように軸索を選定し、tagging するかを調べた。ミエリンベ
ーシックプロテインはそのmRNA が局所に運ばれ、局所でたんぱく質合成されることが知られ
ている(参考文献4)。

そこでMBP の局所たんぱく質発現を可視化することによりどのようなメカニズムで軸索が選定
されるかを示した。すると活動電位依存性の神経軸索からの小胞性のグルタミン酸放出がオリ
ゴデンドロサイト前駆細胞に発現するグルタミン酸レセプターを介し、局所のFyn kinase の活性
を促すことにより局所蛋白発現を促進し、軸索を選定することによりミエリン化を引き起こすこと
がわかった。

これらのことより、MBP の局所発現すなわちここではミエリン化を促す最初のイベント(タギ
ング)は活動電位依存性があり、これらの活動電位により軸索は優位に選定されることがわか
った。このことより活動電位はミエリン介して、神経回路を修飾できる可能性を示した。
この研究はNIH のR. Douglas Fields の研究室で行われました。研究に携わった方々及び私の留学
に際し、ご協力いただいた方々に心から謝意を表します。

参考文献1. F. K. Sanders, D. Whitteridge, J Physiol 105, 152 (Sep 18, 1946).
参考文献2. K. A. Nave, Nature 468, 244 (Nov 11, 2010).
参考文献3. R. D. Fields, Y. Ni, Sci Signal 3, ra73 (2010).
参考文献4. L. S. Laursen, C. W. Chan, C. Ffrench‐Constant, J Cell Biol (Feb 28, 2011).



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