神経化学トピックス

神経化学のトピックを一般の方にもわかりやすくご紹介します。
※なお、目次記載の所属は執筆当時の所属となっております。

28. 神経難病ALSの病態発症から紐解くタンパク質機能制御:
  low-complexityドメインによるcross-βポリマー形成
  森 英一朗(奈良県立医科大学・医学部・未来基礎医学教室)
DOI 10.11481/topics64
掲載日:2018年2月26日  登録日:2018年2月26日

はじめに

 神経難病の代表疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭型認知症(FTD)は、その原因遺伝子が多岐に渡ることから、残念ながら分子生物学的な病態が未だに明らかではありません。近年、ALS/FTDに共通した病態を有する遺伝子異常として、C9orf72遺伝子の異常な繰返し配列が報告され、注目されています。その理由は、このC9orf72遺伝子異常が、ALS/FTD発症の最も頻度の高い原因であることが分かってきたからです。また、この遺伝子異常を伴う患者由来の細胞では、病的な異常タンパク質が作られることが分かってきました。

LCドメインはcross-βポリマーを形成することで機能する
 従来、low-complexity(LC)ドメイン・配列(アミノ酸20種類のうち、わずか数種類だけを使って構成されたタンパク質の配列のこと)のように、結晶構造(らせん状のαヘリックス構造やシート状のβシート構造の二次構造)を持たないタンパク質は、その構造自体が不詳なため、機能解析がそもそも不可能とされてきました。近年これらのLCドメインが実はタンパク質の機能において、構造を持つ領域と同じくらい重要な機能を有していることが少しずつ明らかになってきています。実際、LCドメインを有するタンパク質は、ヒトのタンパク質全体の約10%を占めています。その多くはRNA結合タンパク質あるいはDNA結合タンパク質で、遺伝子の発現、mRNAの修飾、核・細胞質輸送など、細胞に不可欠な機能において重要な働きをしていると考えられています。しかしながら、専門家の中で、LCドメインが機能を発揮する際の機序に関して大きく意見が二分されています。その中で大多数を占めるのが「LCドメインは構造を持たずに機能する」で、もう一つの学説は私たちが提唱している「LCドメインは構造を持つことで機能する」です。
 私たちが提唱するLCドメインによる機能発現に関する知見は、2012年の発見に遡ります(文献1)。こちらの論文の中では、FUS(Fused-in-sarcoma)に代表されるRNA結合タンパク質のLCドメインが、ゼリー状になり、その正体がcross-βポリマー(βシートが平行に並んだ重合体)だということが分かりました。また、病的なcross-βポリマーとして知られている、アミロイドやプリオン等(化学的に非常に安定)とは異なり、RNA結合タンパク質(ALS患者で変異が見つかっているFUS、TDP43、hnRNPsなど)のLCドメインからなるcross-βポリマーは、容易にくっついたり離れたりしていることが分かってきました(図1)。

PRポリペプチドはLCドメインに結合することで機能阻害する
 C9orf72遺伝子の異常では、PR(プロリン・アルギニン)ポリペプチド(アミノ酸が鎖状につながったもの)と呼ばれる、病的で細胞毒性のあるタンパク質が作られます。そこで、まずは、細胞毒性のあるPRポリペプチドの細胞における標的タンパク質を2つの方法を用いて探索しました。これら2つの方法に共通して見つかったPRポリペプチドとの結合タンパク質は様々な種類に及びましたが、その多くは膜をもたないオルガネラ(細胞内の特定の場所)に存在するタンパク質、および、中間径フィラメントを形成するタンパク質でした(文献2)。さらに、PRポリペプチドの結合タンパク質の多くはLCドメインをもち、PRポリペプチドはcross-βポリマーの状態にあるLCドメインと結合していました。これらのことから、PRポリペプチドによる細胞毒性は、細胞の構造変化や遺伝子発現の経路など、多岐にわたる機能の障害の結果、病気が発症していることが考えられました。
 実際に、PRポリペプチドの結合相手として同定された中間径フィラメントについて調べてみました。細胞骨格を構成するタンパク質は、3種類(アクチン、チュブリン、中間径フィラメント)に大別されます。中間径フィラメントは、3つのドメイン(Head、Rod、Tail)に分類されます。中央に位置するRodドメインは、αヘリックス構造を持っています。一方、HeadドメインとTailドメインは、LC配列になっています。詳細な検討の結果、PRポリペプチドが中間径フィラメントのHeadドメインによって形成されたcross-βポリマーに結合していることが分かりました(図2)。
 次に、PRポリペプチドの結合相手として同定された核膜孔(DNAの存在する細胞核と細胞質とを分けている膜に開いた孔)タンパク質について調べてみました。すると、実際にPRポリペプチドは、核膜孔のFG(フェニルアラニン・グリシン)ドメインと呼ばれるLCドメインと結合することで、核膜孔の穴を塞いで、核・細胞質間の物質輸送を阻害していることが分かりました(文献3)。この際にも、FGドメインによって形成されたcross-βポリマーに結合していることが分かりました(図3)。

おわりに
 今回紹介した2つの研究により、PRポリペプチドの標的がポリマーの状態のLCドメインであることが明らかになりました。この結果は、私たちが提唱している「LCドメインは構造を持つことで機能する」という考え方と合致します。今回の研究によって、様々な神経変性疾患の理解と治療法の開発につながることを期待します。

参考文献
1) Kato M, Han TW, Xie S, Shi K, Du X, Wu LC, Mirzaei H, Goldsmith EJ, Longgood J, Pei J, Grishin NV, Frantz DE, Schneider JW, Chen S, Li L, Sawaya MR, Eisenberg D, Tycko R, McKnight SL. Cell-free formation of RNA granules: low complexity sequence domains form dynamic fibers within hydrogels. Cell 2012; 149(4): 753-767.
2) Lin Y, Mori E, Kato M, Xiang S, Wu L, Kwon I, McKnight SL. Toxic PR poly-dipeptides encoded by the C9orf72 repeat expansion target LC domain polymers. Cell 2016; 167(3): 789-802.
3) Shi KY, Mori E, Nizami ZF, Lin Y, Kato M, Xiang S, Wu LC, Ding M, Yu Y, Gall JG, McKnight SL. Toxic PRn poly-dipeptides encoded by the C9orf72 repeat expansion block nuclear import and export. Proc Natl Acad Sci U S A 2017; 114(7): E1111-E1117.

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