神経化学トピックス

神経化学のトピックを一般の方にもわかりやすくご紹介します。
※なお、目次記載の所属は執筆当時の所属となっております。

30. Filopodium-like lateral protrusion (FLP):ニューロンの移動停止過程で形成される突起
  澤田雅人1、澤本和延1,2
  1 名古屋市立大学大学院医学研究科 再生医学分野
  2 自然科学研究機構生理学研究所 神経発達・再生機構研究部門
DOI 10.11481/topics94   
掲載日:2019年1月18日  登録日:2019年3月8日

はじめに
 哺乳類の生後脳では、異なった形態や機能を有する多様なニューロンが正しい位置に配置され、複雑な神経回路を構築することによって高度な脳機能を発現します。神経幹細胞から産まれたばかりのニューロンは、未熟な形態を保ったまま脳内の目的地へと移動していきます。これまでに、未熟なニューロンが目的地まで移動を維持するしくみについてはよく調べられてきましたが、目的地で移動を停止して、複雑な形態のニューロンへと成熟するしくみについてはよく分かっていませんでした。
 生後の脳室下帯には神経幹細胞が存在し、活発に新しいニューロンを産生しています(図1)。この新生ニューロンは、嗅覚情報を処理する「嗅球」まで未熟な形態を保って移動し、正しい位置で停止して神経回路へと組み込まれます。嗅球ニューロンは、嗅球内の位置に応じて形態や機能が異なることから、新生ニューロンの移動停止を調節するしくみは、嗅球の神経回路構築や機能発現に極めて重要だと考えられます。そこで私たちは、生後の嗅球におけるニューロン移動をモデルとし、新生ニューロンが移動を停止するしくみを調べました。

ニューロンの移動停止過程で形成される突起:FLP

 私たちはまず、新生ニューロンが嗅球で移動を停止する過程を、培養スライスを用いたタイムラプスイメージングにより観察しました。その結果、新生ニューロンは、先導突起の基部から側方に1本の突起を伸ばしながら移動を停止することを見いだし、この突起をfilopodium-like lateral protrusion (FLP) と命名しました。また、微小管の重合を可視化するイメージングによって、FLPを形成したニューロンでは、移動に重要な役割を果たす微小管ネットワークが局所的に変化することで、細胞体の移動が抑制されることを明らかにしました(図2)。

FLP形成を調節するしくみ
 次に、FLPの形成を調節するメカニズムを調べるため、反発性ガイダンスに関与することが知られているSema3E-PlexinD1シグナルに着目しました。Sema3EとPlexinD1の発現パターンを調べたところ、嗅球の成熟ニューロンからはリガンドであるSema3Eが発現し、嗅球内を活発に移動する新生ニューロンには受容体であるPlexinD1が発現することを見いだしました。また、新生ニューロンは、活発に移動する際はSema3E-PlexinD1シグナルのはたらきでFLPの形成が抑制されますが、移動停止過程ではPlexinD1の発現が減少することでFLPが形成され、移動が停止することが分かりました(図2)。

FLP形成のしくみが脳構築および機能発現に与える影響

 最後に、PlexinD1シグナルが嗅球における移動停止位置の決定や機能に与える影響を調べました。移動する新生ニューロンで特異的にPlexinD1遺伝子を欠損させたマウスの嗅球においては、新生ニューロンが通常よりも早く移動を停止し、神経回路の形成に異常が生じていました。さらに、このマウスは、特定の匂いに慣れたり、異なった匂いを嗅ぎ分けたりする能力が低下していました。以上より、新生ニューロンの未熟な形態を維持するしくみは、嗅球の神経回路構築や機能発現に重要であることが示唆されました(図2)。

まとめと展望
 本研究では、生後の脳室下帯で産生されたニューロンが、FLPを形成しながら嗅球内の正しい位置で移動を停止するしくみを明らかにしました(文献1)。脳室下帯の新生ニューロンは、脳梗塞や脳外傷などが生じると、傷害部位へ向かって移動しますが、その大部分は途中で停止します。最近、これらの細胞の移動を促進することによって、脳機能を回復させることが可能であることが分かりました(文献2, 3)。従って、FLP形成の調節によって傷害脳の必要な場所にニューロンを再生させることができれば、新しい治療法の開発に役立つ可能性があります。

文献
1.    Sawada M, Ohno N, Kawaguchi M, Huang S, Hikita T, Sakurai Y, Nguyen HB, Thai TQ, Ishido Y, Yoshida Y, Nakagawa H, Uemura A, Sawamoto K (2018) PlexinD1 signaling controls morphological changes and migration termination in newborn neurons. The EMBO Journal, 37: e97404.
2.    Jinnou H, Sawada M, Kawase K, Kaneko N, Herranz-Pérez V, Miyamoto T, Kawaue T, Miyata T, Tabata Y, Akaike T, García-Verdugo JM, Ajioka I, Saitoh S, Sawamoto K (2018) Radial glial fibers promote neuronal migration and functional recovery after neonatal brain injury. Cell Stem Cell, 22: 128-137.
3.    Kaneko N, Herranz-Pérez V, Otsuka T, Sano H, Ohno N, Omata T, Nguyen HB, Thai TQ, Nambu A, Kawaguchi Y, García-Verdugo JM, Sawamoto K (2018) New neurons use Slit-Robo signaling to migrate through the glial meshwork and approach a lesion for functional regeneration. Science Advances, 4: eaav0618

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