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議事録

2009年度(平成21年度)評議員会議事録

日本神経化学会
2009年度評議員会議事録

日時:
2009年6月22日(月) 11:50~12:40
会場:
ホテル天坊 1階 A会場「キング」
出席:
出席78名、委任状92名(評議員総数238名、定足数48名)
議長:
髙坂 新一 理事長
進行:
井上 和秀 副理事長
議題:
日本神経化学会と社会との接点

議事に先立ち、髙坂新一理事長より物故会員2名について報告され、黙祷が捧げられた。

井上和秀副理事長より、評議員は学会を支える基本的な構成員であり、評議員会での議論は学会運営に反映されるものである旨確認された。
また、議題「日本神経化学会と社会との接点」に基づき、以下のポイントについて議論を進めたいこのことであった。

  1. 当会の基本理念は、分子基盤に立脚して脳神経系の病気や様々な不都合を解明することにより、医療や科学の前進に貢献することである。よって、当会にとって「社会との接点」とは第一に「社会への貢献」を意味する。その「社会への貢献」について具体的な踏み込み方を議論願いたい。
  2. 現在当会は、主に医学・薬学・理学の研究者から構成されているが、加えて看護師・理学療法士・製薬メーカー社員等にも参加いただいてはどうかとの意見も聞かれる。この点について議論願いたい。
  3. 「社会との接点」として「社会への提言」も考えたい。
    iPS細胞研究について、当会はどのような姿勢でいるべきかについて議論願いたい。

●1.について

井上和秀副理事長より、以下の通り意見された。

  • 「社会への貢献」すなわち研究を通して医療の発展に寄与すべく、様々な学会と「ゆるやかな連携」を意識して活動を共にしてきた。今後は日本神経学会等の臨床系学会との繋がりも深めたいと考えるが如何か。
    日本神経学会会員及び臨床研究者の意見として、辻省次氏(東京大学)から次の通り発言された。
  • 以前の日本神経学会には、基礎系・臨床系の幅広い分野から研究者が参加していたが、様々な学会で専門医制度等が整備されるに従い、それぞれの学会が純化していったように感じる。
    また、臨床現場では、初期検診の必修化や独立行政法人化が進められるに伴い、研究に割く時間が確保しづらい状況になっている。
    一方で、translational researchの必要性が指摘される等、「病態関連から治療へ」という治療を目指した研究の存在が大きくなっている。
    以上のことから、幅広い研究分野との連携が必須であり、特に基礎系の研究者と協同できる場が必要と考える。幅広い分野の研究者が集う機会があれば、臨床研究者にとって魅力のある場となるであろう。
    また、若手研究者は大規模な学会に対して、より多くのチャンスがあり勉強になるという印象を持っており、大変魅力を感じているようだ。その点は日本神経化学会の課題であろうし、規模ではなくどの点をアピールしていくか検討いただき、アピール度高めていただけることを期待している。

また、西川徹氏(東京医科歯科大学)から以下の通り発言された。

  • 日本神経学会は精神神経系の疾病を対象として始まっており、臨床(特に治療面)へのインパクトは大きかったと思う。
    日本神経化学会ではディスカッションの時間を多く設けているため、基礎系と臨床系の接点をディスカッションで盛り上げるといいのではないか。
    具体的には、ひとつの疾患に対し基礎研究者と臨床研究者がディベート・情報交換できるシンポジウムやワークショップを企画し、「日本神経化学会ではTranslationalな知識が吸収できる」というような特徴を出すと、より基礎系と臨床系の架け橋となるであろう。
    日本神経化学会は、これまでも疾病研究に非常に大きく貢献しているのはまちがいないので、社会的な面をもっと伸ばしてほしい。上記のような企画を増やすと、基礎系からも臨床系からも参加者が多くなるのではないかと期待する。

辻氏、西川氏の意見を踏まえ、井上副理事長より、基礎系・臨床系が交わってディスカッションする場を提供できる企画が求められていることを認識した旨発言され、第51回日本神経学会総会大会長の辻氏に対し、合同シンポジウムの可能性について打診された。

辻氏より、本年7月25日開催の次回年次総会運営委員会までに、当会からなんらかの提案が出されれば、検討は可能とのことであった。


また、昨年合同シンポジウム委員を務めた池中一裕氏(自然科学研究機構 生理学研究所)より以下の通り意見された。

  • これまでも、他領域と交流を深める試みを行ってきた。
    例えば、昨年開催された日本生物学的精神医学会との合同シンポジウムでは双方より若手研究者3名ずつが参加し、ディスカッションを行った。また、毎年開催している理事会オープンシンポジウムでは地元の臨床従事者も含めてディスカッションしたいという意図がある。このようなアプローチで、臨床研究者と交流できることはとても有用であろう。臨床の問題点についてわかりやすく説明いただきながらディスカッションする機会を作り、相互理解を深められるよう提案してほしい。

また、武田雅俊氏(大阪大学)より、以下の通り意見された。

・日本精神神経学会について
  1. 専門医制度の導入により参加者が増加したが、辻先生のご発言の通り、新しい臨床研修システムの下、精神科においてどのようにresearchを行うかが大きな課題となっている。特に若手が積極的に携わるにはどうしたらよいかとの懸念がある。
  2. 会員数約14,000名の大規模な学会であるが、「ゆるやかな連携」を提案する余地はあるように感じる。
・日本生物学的精神医学会について

会員数約2,500名と比較的コンパクトな学会であるが、アイデンティティの確保に苦労している。同規模の日本神経精神薬理学会も同様の状況であると伝え聞いており、それぞれと「ゆるやかな連携」の可能性はあるように思う。

日本神経精神薬理学会会員として米田幸雄氏(金沢大学)より、以下の通り意見された。

  • 日本神経精神薬理学会としては、今まで通りのやり方で日本神経化学会とコラボレートしていきたいと考えている。
    Chemistryのアイデンティティについて、どの学会でも「社会との接点」とか「医療(治療・予防)にどう役立つか」という観点がクローズアップされている。それに対し、日本神経化学会では違った観点もあったように思う。例えば、研究者の個人的な興味あるいは知的好奇心を満足させるためだけの研究に対しても、日本神経化学会ではある程度評価してきたように思う。他学会とのアイデンティティの差別化を図るには、その部分も残した方がいいのではないか。下村脩先生のノーベル賞受賞に見られるように、出発点は個人的な研究であっても、何十年後には世界的に重要な結果となるかもしれない。日本神経化学会ではそのような研究でも見逃さず、評価をするというスタンスを継続してほしいと思う。

シンポジウム企画委員会委員長 柳澤勝彦氏(国立長寿医療センター研究所)より、以下の通り意見された。


  • 過去10年間の大会について調べてみたところ、合同・連携・連合という形でかなり活発に活動しており、相当の努力が見られる。もはや「日本神経化学会のアイデンティティ云々」という議論に終止符を打ってもよいのではないか。今後も精神科や神経内科等の学会を含めた他学会と連携を進めていくと同時に、精神神経疾患の分子基盤を大事にするスタンスを継続していくべきであろう。このスタンスを維持することにより、他学会とは性格の違うアドバンテージを持った学会として、今後も展開が期待できると考える。
●2.について

井上和秀副理事長より、以下の通り意見された。

  • 医薬品開発への発展を期待し、より多くの薬学従事者や製薬メーカー社員の参加を促せないか。あるいは薬学系とコラボレーションする機会を増やした方がよいか。

井上副理事長の意見を踏まえ、鍋島俊隆氏(名城大学)より、以下の通り意見された。

  • 薬学系ではchemicalをキーワードとして生理機能にアプローチするchemical biologyという新しい分野が出てきており、これは日本神経化学会の基本スタンスと同じである。
    そのため、chemical biologyの研究者と合同でシンポジウム等を企画すると、非常に大きなアピールになると思う。
    さらに、精神科専門薬剤師や認定薬剤師認定のためのシンポジウムやワークショップ等、研修的な要素を含んだ企画があると、薬剤師にとっては非常に有意義となり、多数の参加が期待できるであろう。
  • 現在、製薬メーカーは非常にpragmaticであり、学会参加による出張が認められにくい状況となっているため、平日開催の学会には参加が見込めないようだ。一方、薬剤師も臨床現場に従事している者が多く、平日に研修等を受講できる機会が少ない。
    このことから、シンポジウム等の開催を土日に設定する等工夫が必要かもしれない。

和田圭司氏(国立精神・神経センター神経研究所)より、以下の通り意見された。

  • 若手の会員をどのように確保していくかということが、将来的な社会への提言に繋がると思う。極端な例では、小・中学生に対してなんらかの貢献ができないか模索してみる等の試みも考えられるだろう。
    また、家政学部や栄養学科には我々と接点を持てる領域があるように思う。そのような分野との交流を通して、これまで我々が持ち得なかった社会への提言力が身につくのではないかと期待する。
●3.について

岡野栄之氏(慶應義塾大学)より、以下の通り意見された。

  • iPS細胞技術は当初、再生医療のための研究とされていたが、例えば、パーキンソン病等特定の疾患のメカニズムを解析したり、それを用いて創薬の研究に役立てたりすることが可能である。神経疾患の分子解析は、まさに日本神経化学会の十八番であり、エキスパートも多いため、今後はアピールポイントとなるであろう。神経組織の成長・再生・移植研究会(GRT研究会)や日本神経学会でもiPS細胞技術について講演する機会があり、参加者は相当の興味を持っていたので、そこに連携していくと有益なものが作れるのではないかと思っている。

本日の討論を踏まえ、井上副理事長より、以下の通り意見された。

  • 「分子基盤に立脚して病態を解明する」というキーワードは多くの方から賛同されているようであり、その方向性で活動し続けることが好ましいとの印象をさらに強くした。

最後に髙坂新一理事長より、以下の通り意見された。

  • 各先生からいただいた意見は適当なものであり、実現に向け努力していきたい。また、当会の基本的なスタンスは柳澤先生が意見された通りであろう。それを核として他学会と幅広く連携を深めていきたい。
  • 企業(特に製薬メーカー)からのフィードバックは重要であるため、例えば監事に就任いただく等、社会の声を理事会や評議員会に反映させていける仕組みを検討できればよいと考えている。
  • 第4期の科学技術基本計画あるいは脳科学委員会等の中期計画が公になったが、日本神経化学会としても分子基盤をベースにした観点から、それらに対してしっかり反応し、提言していくことが必要であろう。日本の科学技術全体の発展のため、我々も確実に貢献していくべきであり、その方策は脳研究推進委員会にて議論願いたい。

以上を以て、2009年度評議員会を閉じた。