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一般、大学院生、若手研究者(ポスター)
ジェノミクス、エピジェネティクス、非コードRNA
P-109(1)
パニック症における共存症とセロトニントランスポーター遺伝子多型の関連について
棚橋 俊介1,谷井 久志1,林 隆昌1,小西 喜昭1,岡田 元宏1,貝谷 久宣2,佐々木 司3,音羽 健司4,5,岡崎 祐士6
1三重大学大学院医学系研究科精神神経科学分野,2医療法人和楽会 パニック障害研究センター,3東京大学教育学部,4平成帝京大学臨床心理学研究科,5東京大学大学院医学系研究科精神医学,6東京都立松沢病院

【目的】パニック症には、広場恐怖やうつ病の併存がよく知られるが、その背景となる遺伝学的な発症機序については明らかにされていない。また、Serotonin-transporter-linked polymorphic region(5-HTTLPR)は、5-HTTのプロモーター領域の繰り返し配列で、アリルの長さによりL型とS型の遺伝子多型に分けられ、パニック症との関連が想定されている。本研究においては、パニック症における併存症の有無と5-HTTLPRの遺伝子多型の関連性について、不安特性や神経症傾向など人格検査に及ぼす影響を通して検討した。【方法】パニック症患者568名(男性160名、女性408名)に関して文書での説明による同意を得て、遺伝子型の判定(L/L.L/S.S/S型)およびNEO-PI-R(人格特性検査)、STAI(状態-特性不安尺度)、ASI(不安感受性尺度)、SDS(うつ病自己評価尺度)を実施した。また、併存症として、DSM-IV-TRに基づき、広場恐怖、うつ病、双極性感情障害を診断した。遺伝子多型をL型の有無により2群に分類したうえで、併存症と5-HTTLPRの遺伝子多型との関連性を検討した。【結果】パニック症における5-HTTLPRの多型間の比較において、発症年齢、NEO-PI-R、STAI、ASI、SDSに関する差異は認めなかった。広場恐怖の有無と5-HTTLPR遺伝子多型との相互作用における検討では、発症年齢とSTAI(特性不安)に顕著な相互作用を認めた。双極性感情障害の有無と5-HTTLPR遺伝子多型との相互作用における検討では、NEO-PI-Rの調和性に顕著な相互作用を認めた。しかし、うつ病の有無と5-HTTLPR遺伝子多型における検討では相互作用を認めなかった。【結論】本研究は、パニック症において併存症と5-HTTLPR遺伝子多型との相互作用を示唆するものであった。これまでに5-HTTLPR遺伝子多型間のパーソナリティの差異が報告されているが、本研究におけるL型の有無による層別化では差異を認めなかった。遺伝的背景による人格特性の差異が、併存症の発症に関与する可能性はあるが、更なる検討が必要である。なお、本研究は、三重大学大学院医学系研究科・医学部研究倫理審査委員会により承認されている。
P-110(1)
Specific Gene Expression Patterns of 108 Schizophrenia-Associated Loci in Cortex
大井 一高,嶋田 貴充,新田 佑輔,木原 弘晶,大久保 裕章,上原 隆,川崎 康弘
金沢医科大・医・精神神経

The latest genome-wide association study of schizophrenia identified 108 distinct genomic loci that contribute to schizophrenia. Brain development and function depend on the precise regulation of gene expression. The expression of many genes is differentially regulated across brain regions and developmental time points. The aim of the present study was to identify genes that exhibit brain region- and developmental-time-point-specific expression patterns at the gene level among the genes in the 108 schizophrenia-associated genetic loci. We utilized several publicly available databases that have multiple brain region datasets based on developing and adult post-mortem human brains. The temporal-spatial expression analysis revealed that the protein-coding gene transcripts(MEF2C, SATB2, GRIN2A and KCNB1)from the 108 schizophrenia-associated loci were intensively enriched in the cortex during several developmental stages, particularly during the middle-to-late fetal and young adult stages. These cortex-specific genes were particularly highly expressed in the human fetal brain and adult neocortex. These results support evidence indicating that some genes that are related to schizophrenia, such as SATB2, are preferably expressed in the fetal brain but also implicate the young adult period in the pathogenesis of schizophrenia.
P-111(1)
PDCD11遺伝子の稀な変異と統合失調症の発症リスク:罹患同胞対・両親3家系の全エクソーム解析
保谷 智史1,渡部 雄一郎1,布川 綾子1,2,金子 尚史1,2,村竹 辰之1,3,井上 絵美子1,澁谷 雅子1,井桁 裕文1,江川 純1,染矢 俊幸1
1新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野,2大島病院,3古町心療クリニック

【目的】統合失調症の罹患者が複数いる家系においては、頻度が稀な変異がその発症に重要な役割を果たしていると考えられている。統合失調症の発症に大きな影響力をもつ稀なリスク変異を同定するために、我々は罹患同胞対・両親3家系の全エクソーム解析を行った。【倫理的配慮】本研究は新潟大学医学部遺伝子倫理審査委員会により承認されており、対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。【方法】罹患同胞対・両親3家系計12人を対象とした。SureSelect Human All Exon V4またはV5 Kitを用いて作製されたエクソームライブラリーをHiSeq2000システムでシーケンスした。検出された変異について以下のフィルタリングを行った。第1にカバーリードが10未満の変異を除外した。第2に各家系において罹患同胞対に共有されている変異を選択した。第3に優性または劣性モデルで伝達されている変異を選択した。第4にミスセンス変異を選択した。第5にGERPスコア>5の変異を選択した。第6にデータベースにて日本人におけるアレル頻度<0.01の変異を選択した。フィルタリングにより選択された変異が存在する遺伝子のうち、複数の家系に共通するものを候補リスク遺伝子とした。【結果】フィルタリングにより、88遺伝子に計89個(家系#1に24個、家系#2に32個、家系#3に33個)の稀なミスセンス変異が選択された。これらの変異が存在する遺伝子のうち、2家系に共通する候補リスク遺伝子としてPDCD11遺伝子を同定した。すなわち、家系#1ではV1240L変異が非罹患者の父から、家系#2ではD961N変異が非罹患者の母から、罹患同胞対に伝達されていた。【結論】統合失調症罹患同胞対2家系に共通する候補リスク遺伝子としてPDCD11遺伝子が同定された。
P-112(1)
東アジア人におけるGSTM1遺伝子のコピー数多型と統合失調症との関連に関するメタ解析
井桁 裕文,渡部 雄一郎,保谷 智史,染矢 俊幸
新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野

【はじめに】酸化ストレスが統合失調症の病態に関与することが示唆されている。グルタチオンS転移酵素Mu1(GSTM1)は、グルタチオンによる酸化ストレス産物などの解毒作用を触媒している。GSTM1遺伝子のコピー数多型の完全欠失では、GSTM1の酵素活性が失われる。GSTM1遺伝子のコピー数多型と統合失調症との関連解析がなされているが、研究結果は一致していない。メタ解析では、東アジア人において、このコピー数多型の完全欠失と統合失調症との関連が報告された。しかし、このメタ解析には最近日本で行われた最もサンプル数が大きい研究は含まれていない。そこで、東アジア人におけるGSTM1遺伝子のコピー数多型と統合失調症との関連に関する最新のメタ解析を行った。【方法】東アジア人におけるGSTM1遺伝子のコピー数多型と統合失調症との関連を調べた症例・対照研究を対象とし、変量効果モデルによるメタ解析(DerSimonian-Laird法)を行った。【結果】東アジア人における6つの症例・対照研究(1833対1971)を用いたメタ解析を行った結果、完全欠失と統合失調症との有意な関連は認められなかった(オッズ比=1.19、95%信頼区間=0.90-1.58)。【結論】東アジア人において、GSTM1遺伝子のコピー数多型は、統合失調症の発症に関連していないことが示唆された。
P-113(1)
神経発達期におけるpoly(I:C)母体曝露によるゲノム・エピゲノム状態への影響
村田 唯1,2,文東 美紀2,大西 新3,窪田-坂下 美恵4,池亀 天平1,石渡 みずほ4,須原 哲也3,笠井 清登1,加藤 忠史4,岩本 和也2
1東京大院・医・精神医学,2熊本大院・生命科学・分子脳科学,3放医研・脳機能イメージング,4理研・BSI・精神疾患動態

近年我々は、統合失調症患者由来前頭葉組織においてLINE-1のコピー数が増加していることを報告した(Bundo et al., 2014)。LINE-1は哺乳類ゲノムに点在しているレトロトランスポゾンの一種で、新規挿入により遺伝子発現やゲノム全体の安定性に影響を及ぼす。また、精神疾患モデルpoly(I:C)投与マウスにおいても、患者同様LINE-1量が増大していることが示された。このモデルではウイルスゲノムを模した二本鎖RNAのアナログであるpoly(I:C)化合物を妊娠マウスに曝露させることにより、仔において神経新生の障害や統合失調症様行動を示すことが知られている。現在、LINE-1転移活性上昇の分子メカニズムについて調べるため、poly(I:C)投与モデルを用いたゲノム・エピゲノムおよび発現解析を行っている。今回、妊娠マウスに様々な条件下でpoly(I:C)を投与し、仔マウス前頭葉におけるLINE-1コピー数およびメチル化率を定量した。まず、単回(20 mg/kg、40 mg/kg、60 mg/kgのpoly(I:C)あるいはその溶媒)または5日間連続(20 mg/kg)投与し総LINE-1量を測定した結果、投与量依存的なLINE-1量の上昇が認められ、特に連続投与群においては顕著な増大を示した。また、成体マウスを用いて転移活性を保持したLINE-1サブファミリー(Tf I、A、Gf IIタイプ)のDNAメチル化率を定量した解析では、Tf Iタイプではpoly(I:C)投与群で高メチル化、Gf IIタイプでは低メチル化といったサブファミリー特異的なメチル化変化を示した。これらのことから、LINE-1の転移活性は神経発達期におけるpoly(I:C)母体曝露によって大きく変動すること、またその活性制御はサブファミリー依存的に行われていることが分かった。現在、胎仔マウス神経前駆細胞におけるトランスクリプトーム解析およびiTRAQタグを用いたプロテオーム解析を進めており併せて報告したい。
P-114(1)
自閉スペクトラム症におけるCLN8遺伝子のリシークエンスおよび関連解析
井上 絵美子1,渡部 雄一郎1,Xing Jingrui2,久島 周2,江川 純1,奥田 修二郎3,保谷 智史1,岡田 俊2,宇野 洋太2,石塚 佳奈子2,杉本 篤言1,井桁 裕文1,布川 綾子1,4,杉山 登志郎5,尾崎 紀夫2,染矢 俊幸1
1新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野,2名古屋大学大学院医学系研究科精神医学,3新潟大学大学院医歯学総合研究科バイオインフォーマティクス分野,4大島病院,5浜松医科大学児童青年期精神医学講座

【はじめに】自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD)のエクソーム解析により、頻度は稀だが発症に大きな効果をもつリスク変異が同定されるようになってきた。我々は、多発罹患家系のエクソーム解析により、ASDの候補リスク遺伝子としてCLN8遺伝子を同定した。今回我々は、CLN8遺伝子がASDの発症脆弱性に関与している可能性を検証することを目的としてリシークエンスと関連解析を行った。
【方法】本研究は新潟大学および名古屋大学の医学部遺伝子倫理審査委員会により承認されており、ヘルシンキ宣言に則って行われた。対象者からは書面にて研究参加の同意を得た。ASD(自閉性障害、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害)の診断はDSM-IVの基準に従って行った。ASD罹患者256人についてCLN8遺伝子コード領域をリシークエンスした。これにより同定されたアレル頻度0.01未満の稀な非同義変異について、新潟サンプル(症例256・対照667)と名古屋サンプル(症例312・対照352)を用いて関連解析を行った。遺伝子型判定にはTaqMan法を用いた。
【結果】ASD罹患者256人のリシークエンスにより、5つの稀な非同義変異、すなわち、g.1719291G>A(R24H)、rs201670636(F39L)、rs116605307(R97H)、rs143701028(T108M)、rs138581191(N152S)を同定した。これらの変異を、患者568人(リシークエンスの256人を含む)と対照者1017人でタイピングしたが、ASDとの有意な関連は認められなかった。
【結論】本研究では、CLN8遺伝子の稀な非同義変異がASDの発症脆弱性に寄与している可能性は支持されなかった。
P-115(1)
精神症状を来し、mtDNA多重欠失を認めたミトコンドリア脳筋症の家系例
笠毛 渓,中村 雅之,大毛 葉子,梅原 ひろみ,佐野 輝
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科精神機能病学分野

ミトコンドリアの障害では、ミトコンドリアの好気的エネルギー代謝障害に伴いエネルギー需要が大きい脳や筋を中心に多臓器が侵され、中枢神経症状、ミオパチーを中心とした多彩な臨床症状を呈し、中には精神症状が前景にたつ場合もある。ミトコンドリア脳筋症ではミトコンドリア遺伝子(mtDNA)の変異により生じるが、一部には核遺伝子変異が関係している場合もある。今回我々は、ミトコンドリア脳筋症が疑われた家系例を経験した。本家系では脳卒中や糖尿病、難聴、認知症などミトコンドリア脳筋症が疑われる症例が多発していた。発端者は71歳の男性。先天性難聴があり、幼少時に知的障害を指摘されていた。糖尿病、四肢筋力低下、眼瞼下垂などの症状が出現しており、感情失禁なども認めていた。PCRサザンブロット法において、筋由来のミトコンドリア遺伝子に多重欠失を認めた。本症例において我々は、遺伝子異常が二次的にmtDNA欠失の蓄積を引き起こすと報告のある8つの核性遺伝子、POLG、POLG2、C10orf2、SLC25A4、ECGF1、OPA1、WFS1、RRM2Bについて直接シークエンス法で遺伝子変異解析を行った。これらの遺伝子の中では変異が認められず、全エクソーム解析を行ったところ、いくつかの候補遺伝子が考えられ、現在解析中である。今回、本症例での臨床症状の特徴、生化学的検査、画像検査、筋病理検査結果を提示し、遺伝子解析結果の報告を行う予定である。さらに、mtDNAの多重欠失と精神症状との関連について考察する。なお、この研究は鹿児島大学医学部遺伝子研究倫理委員会の承認を得た上で行った。