TOP公募シンポジウム
 
公募シンポジウム
長期経過神経疾患の神経病理
7月6日(木) 9:00-11:00 Room C
1SY①-1
ALSの長期生存例
An autopsy case of long-term survivor with ALS

齊藤 祐子, 金丸 和富, 徳丸 阿耶, 村山 繁雄
東京都健康長寿医療センター
Yuko Saito, Kazutomi Kanemaru, Aya Tokumaru, Shigeo Murayama
Dept. Neuropath. Tokyo Metro. Instit. for Geriat. and Gelontol., Tokyo, Japan

【症例】死亡時77歳、男性【主訴】下血、腹部膨満、意識レベル低下【病歴】42歳(1970年後半)、呂律の回りにくさ自覚。徐々に増悪。43歳A病院神経内科受診。筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断。44歳、B病院神経内科に入院。その後、嚥下障害,呼吸筋麻痺が進行。 46歳気管切開,人工呼吸器装着。C病院転院後49歳から在宅療養となり、D医院の往診と当センター医師などの難病検診を定期的に受けていた。大きなトラブルは無く、栄養は経鼻胃管.寝たきり状態であるが意識清明.眼球運動,開閉眼は可能。パソコンによりコミュニケーション可能.しかし76歳時、下血、意識レベル低下あり、当院に入院。間もなく敗血症にて永眠。御遺族同意のもと、病理解剖を施行し、一般病理学的には直腸癌を認め、直接死因と考えられた。 【神経病理所見】脳重 1160g, 肉眼的に脊髄前根の選択的萎縮、中心前回の萎縮を認めた。光顕所見では、脊髄前角細胞や絶歌神経などの脳神経核の高度の脱落を認め、Bunina小体は認めず、TDP43免疫染色でも基質にドットが散見されるのみ。動眼神経核は保たれていた。中心前回ではグリオーシス、基質の粗鬆化を認め、Betz巨細胞はほとんど確認できず、TDP43免疫染色でも基質にドットが染色されるのみ。錐体・錐体路の萎縮が著明。海馬の歯状回に陽性所見は認めず。老年性変化ほとんど認めず。【考察・結語】本例は30年間の人工呼吸器装着という超長期例であるが、死亡直前まで大きなトラブルなく、良好なQOLが維持されていた。神経病理学的には一次及び二次運動ニューロンの変性が著しい一方で、認知症関連の異常タンパク貯留性病変はきわめて乏しく、長期生存影響している可能性がある。
7月6日(木) 9:00-11:00 Room C
1SY①-2
MSAの長期生存例
The neuropathological features of multiple system atrophy with a long clinical course

安藤 孝志1,2, 陸 雄一1,3, 赤木 明生1, 宮原 弘明1, 曽根 淳1, 吉田 眞理1, 岩崎 靖1
1. 愛知医科大学 加齢医科学研究所, 2. 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院 脳神経内科, 3. 名古屋大学 神経内科
Takashi Ando1,2, Yuichi Riku1,3, Akio Akagi1, Hiroaki Miyahara1, Jun Sone1, Mari Yoshida1, Yasushi Iwasaki1
1. Department of Neuropathology, Institute for Medical Science of Aging, Aichi Medical University, 2. Department of Neurology, Japanese Red Cross Aichi Medical Center Nagoya Daiichi Hospital, 3. Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine

多系統萎縮症(multiple system atrophy, MSA)は臨床的には、小脳失調、パーキンソニズム、自律神経障害が様々な程度で組み合わさって出現することを特徴とする成人発症の神経変性疾患である。MSAは一貫して進行性の経過を呈し、発症時点からの平均生存期間は6~10年前後とされている。
MSAの中枢神経では、オリーブ橋小脳系、線条体黒質系、自律神経系、錐体路を中心に神経細胞脱落やグリオーシスが観察される。MSAは神経病理学的には, αシヌクレイン陽性のオリゴデンドログリア細胞質内封入体であるglial cytoplasmic inclusions(GCI)がこれらの変性部位を中心に広く出現することにより定義されている。また、GCI以外に, オリゴデンドログリアの核内、神経細胞の細胞質内や核内, 神経突起内などにαシヌクレイン陽性封入体が出現することが知られている。
前述の通りMSAは予後不良な疾患であるが、時に長期生存する症例が存在する。愛知医科大学加齢医科学研究所における約200例のMSA剖検症例の平均生存期間は約7.4年であったが、最長は25年であった。本演題では、当施設のMSA剖検症例の中で長期生存例に注目し、その臨床病理学的特徴を検討する。
7月6日(木) 9:00-11:00 Room C
1SY①-3
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の長期生存例
Long-term survival patient with DRPLA

望月 葉子
都立北療育医療センター 脳神経内科
Yoko Mochizuki
Dept. of Neurol., Tokyo Met. Kita Med. and Rehabil. Ctr.,

【症例】死亡時50歳女性、父と弟はDRPLAで死亡。【現病歴】小学3年頃から知的障害、13歳で痙攣発作があり、18歳で小脳性運動失調も出現、phenytoin (PHT)も開始されたが、てんかんは難治で多剤併用しPHTは最期まで継続した。23歳で当院初診、知的障害、小脳性運動失調、不随意運動、深部腱反射亢進があり、ATN1CAGリピート69/15で DRPLAと診断された。27歳から経管栄養、28歳で気管切開、30歳から痙攣防止のため遮光、38歳で声門閉鎖・永久気管孔形成した。尿路感染症、播種性血管内凝固のため死亡、ブレインバンク登録・受託契約にて病理解剖された。【神経病理所見】頭蓋骨は肥厚し、脳重607 gで、脳幹・小脳に高度、前頭葉に軽度萎縮があった。淡蒼球、視床下核に神経細胞脱落とグリオーシス(変性)があり、線条体も軽度変性していた。小脳歯状核の変性は高度でグルモース変性を呈し、歯状核門の線維は高度脱落、赤核も変性していた。小脳顆粒細胞の脱落が高度、プルキンエ細胞の脱落もあり、白質のボリュームが小さくグリオーシスがあった。黒質、青斑核、橋核、脳幹の運動神経核、脊髄前角は保たれていた。橋横走線維、オリーブ外套、オリーブ小脳線維は減少し、下オリーブ核に変性がみられた。延髄錐体、脊髄側索は萎縮して髄鞘が淡明化していた。クラーク柱の変性と後脊髄小脳路線維の脱落、薄束の変性と内側毛帯線維の減少があった。大脳白質のボリュームは小さく、後頭葉皮質の変性が高度であった。IC2で小脳歯状核の神経細胞胞体に陽性構造がみられた。【まとめ】気管切開して22年経過したDRPLAで、本疾患で報告されている神経病理所見が高度で、線条体、小脳皮質も変性していた。
7月6日(木) 9:00-11:00 Room C
1SY①-4
人工呼吸器使用下に長期生存を得た孤発性CJD、65才女性の剖検例
Sporadic Creutzfeldt-Jakob disease with unusually long survival under the use of artificial respiratory support

川浪 文1, 村山 繁雄2,3, 柳下 三郎1, 齋藤 祐子2, 松原 知康2, 荒川 昌2, 宮下 真信1, 宮城 雄一1, 冨樫 尚彦1, 近藤 祐子1, 舘野 琴菜1, 長谷川 一子1
1. 独立行政法人 国立病院機構 相模原病院 脳神経内科, 2. 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 高齢者ブレインバンク, 3. 大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属 子どもの心の分子制御機構研究センター ブレインバンク・バイオリソース部門
Aya Kawanami1, Shigeo Murayama2,3, Saburo Yagishita1, Yuko Saito2, Tomoyasu Matsubara2, Akira Arakawa2, Masanobu Miyashita1, Yuichi Miyagi1, Naohiko Togashi1, Yuko Kondo1, Kotona Tateno1, Kazuko Hasegawa1
1. Division of Neurology, Sagamihara National Hospital, 2. Department of Neuropathology, Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology, 3. Molecular Research Center for Children's Mental Development, United Graduate School of Child Development, University of Osaka

【目的】人工呼吸管理により、7年間生存したsCJDの剖検を報告する。【現病歴】X年(58歳)12月、記銘力障害、視野障害、ふらつきで発症。X+1年1月、A病院受診。同名半盲を指摘され、頭部MRIで後頭葉皮質にDWI高信号を認めた。2月、B大学病院でCJDと診断された。3月に無動性無言となり、肺炎を併発した際、配偶者の強い希望で人工呼吸管理を施行。在宅療養に移行した。X+4年、ホスピス入所。X+6年Brainbank donorに登録。X+7年8月(65歳)誤嚥性肺炎で死亡。健康長寿医療センターで病理解剖を施行。【結果】脳重は612g、肉眼所見で、大脳の高度萎縮、小脳及び橋の萎縮を認めた。海馬傍回と側頭回は比較的保たれていた。組織学的に大脳新皮質は高度に萎縮し、神経細胞は脱落、深層に大型の空洞形成を認めた。海馬は比較的保たれていたが、海綿様変化を認めた。皮質下構造に変性を認めた。抗Prion抗体免疫染色で、大脳皮質、皮質下組織、海馬にシナプス型の陽性沈着物に加えて、不定形の陽性凝集構造物を無数認めた。前頭葉皮質を用いたWB解析では1型Patternで、Prion蛋白遺伝子codon多型129はM/M、codon 219はE/E、病的変異は認めなかった。【考察】sCJD MM1型で、人工呼吸器で長期生存した剖検例は本症例が初である。海馬に最も多くみられたPrion蛋白凝集構造物は、経過の長いsCJD MM1型に特徴的な所見であり、30年前北本らにより報告された、長期生存例における特徴的プリオン蛋白凝集の意義を確認できた。7年の経過中、大学病院、在宅医療、ホスピス、市中病院、ブレインバンク、30年の歴史を持つ本邦プリオン病サーベイランスの連携により、家族によりそい、発症から剖検まで結びつけることができた。
7月6日(木) 9:00-11:00 Room C
1SY①-5
SMONの長期生存例
An autopsy case of a long-term survivor from subacute myelo-optico-neuropathy (SMON)

豊岡 圭子1, 葛 林循1, 須藤 素弘1, 森 千晃1, 山寺 みさき1, 井上 貴美子1, 村山 繁雄2, 藤村 晴俊3
1. 大阪刀根山医療センター 脳神経内科、豊中市、日本, 2. 大阪大学大学院連合小児発達学研究科附属、吹田市、日本, 3. 堺市立総合医療センター 脳神経内科、堺市、日本
Keiko Toyooka1, Rinjun Katsu1, Motohiro Sudo1, Chiaki Mori1, Misaki Yamadera1, Kimiko Inoue1, Shigeo Murayama2, Harutoshi Fujimura3
1. Dept. of Neurology, Osaka Toneyama Medical Center, Toyonaka, Japan, 2. United Graduate School of Child Development, Osaka University, Suita, Japan, 3. Dept. of Neurology, Sakai City Medical Center, Sakai, Japan

【目的】整腸剤キノホルムの使用禁止後50年を経て、長期生存スモン患者の神経病理所見を提示し、特に脊髄病変に関して検討を加えた。
【症例】症例は死亡時85歳女性。33歳時スモンを発症。歩行不可となったが、その後杖歩行まで軽快した。死亡前年の検診時、下肢に中等度筋力低下、痙縮、筋萎縮あり。臍以下の触覚・痛覚中等度低下と下肢の振動覚高度低下を認めた。認知症認めず。膵癌と多発肝転移が見いだされ、約半年後に死亡された。全経過52年7か月。
【方法】脊髄全髄節を切り出しH.E. K.B. SMI31を含む免疫染色で検討した。
【病理所見】頚髄部で明瞭な薄束内側の変性を認めるが最外側が対称性に境界明瞭に保存されていた。錐体側索変性は尾側に行くほど髄鞘染色での淡明化は明瞭だが仙髄部では萎縮として確認出来た。頭蓋内は中心前回を含め著変を認めなかった。視神経、後根神経節、大腿/腓腹神経に特記すべき所見を認めなかった。
【考察】本例は最長期生存例で、ほぼ対称性の後索>側索変性を認めたが、視神経には異常を認めず、臨床症状と合致していた。本例を含めたスモン長期症例19例では、剖検時後索病変に比し側索病変は不明瞭になる傾向があった。薄束の病理は一定の長さ以上の中枢軸索が遠位優位に障害を受けた慢性結果を示しており特徴的所見と考えられる。側索の病理は慢性期血管障害片麻痺側索萎縮に類似するが、最尾側に萎縮が認められる点は薄束と同様の機序が考えられる。
【結論】スモン長期生存例の病理から、キノホルム毒性に関し、dying backだけでは説明困難なユニークな病態推察を行った。