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公募シンポジウム
神経発達症の神経病理・神経化学
7月7日(金) 8:30-10:30 Room G
2SY②-1
神経発達障害の病理
Neuropathology of neurodevelopmental disorders

村山 繁雄
大阪大学大学院連合小児発達学研究科子どものこころの分子統御機構研究センターブレインバンク・バイオリソース部門
Shigeo Murayama
Brain Bank for Neurodevelopmental, Neurological and Psychiatric Disorders, United Graduate School of Child Development

神経疾患と精神疾患の分離にあたり、死後脳を検索し診断がつくものを前者、つかないものを後者とする分類がなされた。そのため特発性てんかんは当初精神疾患に分類されていたが、サロゲートバイオマーカーである脳波の開発により、神経疾患に再分類された。一方統合失調症、気分障害、神経症は、精神疾患にとどまっている。問題は神経発達障害、特に自閉症である。これらは症状的に統合失調症との重複を持つが、発症年齢が大きく異なる。画像については、自閉症脳は出生時に脳が大きく、減少スピードが小さいことが報告されている。また拡散テンソル異常も報告されているが、本邦においては確認できず、人種差の存在が推察されている。自閉症の病理については、欧米においては自閉症親の会と法医学者との協力の元に構築された、Autism Brain Netによる死後脳リソースが大きく貢献している。形態病理として多くのものが報告されているが、対象をかえた再現性が確認できない状況がある。本邦には自閉症死後脳リソースは皆無であるが、当科が国立精神・神経医療研究センター(NCNP)開発費援助で行った、自閉症親の会へのアンケート調査では、ブレインバンク構築には肯定的回答が寄せられた。また自閉症トリオゲノム蒐集・管理を継続している。現在AMED研究費による精神疾患脳リソース構築を目的とした、日本ブレインバンクネットの一員として、大阪大学法医学教室の協力の元、発達障害児の死後脳レジストリ構築努力を行っているが、司法解剖案件が多く達成に至っていない。大阪母子医療センターとの協力同意を得ているが、剖検に至る症例がない現状があるが、努力は継続予定である。
7月7日(金) 8:30-10:30 Room G
2SY②-2
自閉スペクトラム症における神経炎症とプロスタグランディンD2
Neuroinflammation and Prostaglandin D2 in brains of autism spectrum disorder

橘 雅弥
大阪大学 連合小児発達学研究科
Masaya Tachibana
United Graduate School of Child Development, Osaka University

近年の遺伝学的研究において、自閉スペクトラム症(ASD)関連遺伝子は、シナプス関連蛋白、転写・翻訳因子、炎症関連因子などに収束することが示されている。ASD剖検脳の病理学的検討や脳画像による検討においては、大脳皮質の構造異常・過剰なシナプス形成と合わせて、神経炎症とミクログリアの活性化が明らかになっている。また母体炎症モデルマウス(MIAマウス)におけるミクログリア形態の持続的変化や、乳幼児期に過剰な頭囲拡大を示す症例の検討から、神経回路形成におけるシナプス形成・刈込と神経炎症の病態への関与が示唆されている。一方で、炎症メディエーターであるプロスタグランジンD2(PGD2)の合成酵素である造血器型PGD合成酵素(HPGDS)は、マウスにおいては生後早期に活性型ミクログリアに強発現しており、不要な細胞を貪食除去していることが示されている。演者らは、米国自閉症ブレインバンクのASDおよび非ASDコントロールの剖検脳を用いて、ミクログリアの活性化とHPGDSの発現について検討を行い、ASDの前頭葉において、活性型ミクログリアにおけるHPGDS発現が増加していることを見出した。このことは、ASDにおいてHPGDS-PGD2経路がミクログリアの機能変化、シナプス刈込の変化を引き起こしている可能性を示唆するものである。さらに、ニューロンにはPGD2のレセプターであるDP1が発現しており、ミクログリアのHPGDS過剰発現によるHPGDS-PGD2経路の活性化が、ニューロンの機能や形態変化を来す可能性もある。本発表では、ヒトASD剖検脳組織を用いたミクログリアにおけるHPGDS強発現について紹介する。
7月7日(金) 8:30-10:30 Room G
2SY②-3
胎生期PGD2-DP1シグナル活性化と神経発達症
Relationship between prenatal PGD2-DP1 signaling activation and neurodevelopmental disorders.

早田 敦子1,2,3
1. 大阪大学 歯学 薬理, 2. 大阪大学 薬学 神経薬理, 3. 大阪大学 連合小児 子供のこころセンター
Atsuko Hayata-Takano1,2,3
1. Dept. of Pharmacol., Grad. Sch. Dentistry, Osaka Univ., Osaka, Japan, 2. Lab. Mol. Neuropharmacol., Grad. Sch. Pharmaceut Sci., Osaka Univ, Osaka, Japan, 3. Mol. Res. Ctr. Children's Mental Dev., United Grad. Sch. Child Dev., Osaka Univ, Osaka, Japan

プロスタグランジンD2 (PGD2)は,その受容体であるDP1,CRTH2 (DP2)を介して様々な機能調節に関わる生理活性物質である.脳内ではこれまでに,PGD2と炎症反応を引き起こすミクログリアとの関連について多数報告されてきた.一方で,造血器型PGD2産生酵素 (HPGDS)やPGD2受容体は,神経発達時期である新生仔期マウスの大脳に強く発現すること,さらにHPGDSは自閉スペクトラム症(ASD)の幼齢患者の死後脳において増加していることから,PGD2シグナルはASDなどの神経発達症の発症にも関与し, 神経細胞の形態形成や社会性行動に何らかの影響を与えている可能性が考えられる.PGD2の受容体のうちDP1は神経細胞に発現していることが明らかになっているが,PGD2-DP1シグナルの神経発達への影響に着目した研究は少なく,不明な点も多い.そこで,本研究では周産期におけるPGD2-DP1シグナルの役割を明らかにすることを目的に,胎生期におけるDP1シグナルの活性化によるマウスの行動表現型や神経細胞の動態への影響について,行動薬理学的や電気生理学的手法などにより解析した結果を紹介する.
7月7日(金) 8:30-10:30 Room G
2SY②-4
神経発達症のモデル動物の作成と病態解析
Establishment of ASD mouse model and its characterization

中谷 仁1, 豊田 太3, 澤野 俊憲8, 郷 康宏5, 堀家 慎一6, 小山 なつ4, 遠山 育夫2, 等 誠司4, 内匠 透7, 田中 秀和8
1. 立命館大学, 2. 滋賀医科大学 神経難病研究センター, 3. 滋賀医科大学 細胞機能生理学, 4. 滋賀医科大学 統合臓器生理学, 5. 生理学研究所, 6. 金沢大学 疾患モデル総合研究センター, 7. 神戸大学 医学部 生理学細胞生物学, 8. 立命館大学 生命科学部 薬理学
Jin Nakatani1, Futoshi Toyoda3, Toshinori Sawano8, Yasuhiro Go5, Shin-ichi Horike6, Natsu Koyama4, Ikuo Tooyama2, Seiji Hitoshi4, Toru Takumi7, Hidekazu Tanaka8
1. Ritsumeikan Univ, 2. Molecular Neuroscience Reserch Center, Shiga Univ of Medical Science, 3. Department of Cell Physiology, Shiga Univ of Medical Science, 4. Department of Integrative Physiology, Shiga Univ of Medical Science, 5. Division of Behavioral Development, Department of System Neuroscience, National Institute for Physiological Sciences, National Institutes of Natural Sciences, 6. Research Center for Experimental Modeling of Human Disease, Kanazawa University, 7. Department of Physiology and Cell Biology, Kobe University School of Medicine, 8. Pharmacology Laboratory, Ritsumeikan University

自閉症スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションや限定された興味などで定義される神経発達症の一つである。生涯に渡って治癒されることはなく、その病因も不明である。病因究明が遅れている原因としては、ASD患者は健常人と変わらないライフスパンであり、神経病理学的研究が困難であることが挙げられる。この様な理由より、病因究明を目指すには齧歯類を含めたモデル動物の作成が非常に重要である。双生児研究により、ASDは遺伝学的背景が強い、ということが知られている。21番染色体のトリソミーで発症するダウン症の様な染色体のコピー数の異常(Copy Number Variation: CNV)が存在することがASDでも知られている。本講演では特に、ASD患者で発見されているCNVの一つ、染色体15q11-13領域の部分重複を参考にマウスモデルを作成した話と、その解析についてお話させて頂く予定です。また同時に、一般にCNVは病態研究が盛んであるが、それが生物学的にどの様な意義があるのか、を進化的な視点を交えて議論できたら、と考えております。
7月7日(金) 8:30-10:30 Room G
2SY②-5
神経発達症動物モデルの神経病理
Neuropathology in animal models of neurodevelopmental disorders

臼井 紀好1,2,3,4
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経細胞生物学, 2. 大阪大学 大学院連合小児発達学研究科, 3. 大阪大学 国際医工情報センター, 4. 大阪精神医療センター こころの科学リサーチセンター 依存症ユニット
Noriyoshi Usui1,2,3,4
1. Dept. Neurosci. Cell Biol., Grad. Sch. Med., Osaka Univ., Osaka, Japan, 2. United Grad. Sch. Child Dev., Osaka Univ., Osaka, Japan, 3. Global Ctr. Med. Eng. Info, Osaka Univ., Osaka, Japan, 4. Addiction, OPRC, OPMR, Osaka, Japan

神経発達症は遺伝要因と環境要因またはその両方によって発症すると考えられているが、これらの病態メカニズムについては未解明な部分が多く、完全な理解には至っていない。また、併存や症状が多様であることから発症要因の特定や病態の理解が難しく、根本的な治療法も確立されていない。自閉スペクトラム症(ASD)は社会性コミュニケーションの障がい、限定・反復された行動や興味、感覚過敏・感覚鈍麻を示す神経発達症であり、注意欠如・多動症(ADHD)は不注意、多動性、衝動性を示す神経発達症である。我々はこれまでにモデル動物として主にマウス用いて個体レベルの解析を行い、脳の発生・発達及び病態における神経病理を分子から個体レベルで明らかにしてきた。本シンポジウムではモデル動物を用いた神経病理を中心に神経発達症動物モデルにおける我々の研究成果について発表及び議論できればと考えている。