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公募シンポジウム
脳アミロイドアンギオパチー:新しいコンセプト
7月8日(土) 8:30-10:30 Room C
3SY②-1
アミロイド病理を誘発し分布(脳実質/脳血管)を決定する因子
Molecular Dissection of deposition and spreading of β-amyloidosis in Alzheimer's disease

橋本 唯史
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第四部
Tadafumi Hashimoto
Dept. of Degener. Neurol. Dis., NCNP

認知症を主症状とする進行性変性疾患であるアルツハイマー病 (Alzheimer’s disease; AD)において、脳内でamyloid β peptide (Aβ)が凝集し、老人斑やcerebral amyloid angiopathy (CAA)として蓄積することが疾患発症のトリガーと考えられている。これまで病理学的解析からβ-amyloidosisの分布は時系列に沿って脳内を拡がることが知られているが、どのようなAβ分子種が、どのような機序で拡大に関与するか不明であった。演者はこれまでにAβ蓄積を呈する高齢APPトランスジェニックマウス脳やAD患者脳のTris緩衝液可溶画分中にβ-amyloidosisに伴って出現する分子量200 kDa以上のAβ分子種 (peak 1 Aβ)を同定した。そして、peak 1 AβをAβ蓄積のない若齢APP tgマウス脳海馬に接種すると、海馬にAβ蓄積が誘発され、大槽に注入すると、軟膜下や血管周囲にCAAが誘発されることを見出した。これらの結果は、peak 1 Aβがβ-amyloidosis拡大に関与する分子種であり、その拡がる経路によって、β-amyloidosis分布が決定される可能性を示唆するものであった。また、AD患者脳より剥離した髄膜・血管組織中には実質に比して豊富にpeak 1 Aβが存在することも分かり、peak 1 Aβは髄膜・血管周囲腔に保持されている可能性が示唆された。本発表では、さらにpeak 1 Aβのβ-amyloidosis誘発に関与する因子についても議論を行う。
7月8日(土) 8:30-10:30 Room C
3SY②-2
脳アミロイドアンギオパチー関連炎症とARIA
CAA-related inflammation and ARIA: similarities and differences

坂井 健二1, 山田 正仁2
1. 上越総合病院 神経内科, 2. 九段坂病院 内科(脳神経内科)
Kenji Sakai1, Masahito Yamada2
1. Department of Neurology, Joetsu General Hospital, 2. Department of Internal Medicine, Division of Neurology, Kudanzaka Hospital

脳アミロイドアンギオパチー (CAA) は髄膜および脳実質の血管にアミロイドの沈着を認める疾患で、アミロイドβ蛋白 (Aβ) が沈着する孤発性Aβ型CAAが最も多い。CAAでは血管壁の変性によって、脳出血などを生じるが、炎症・血管炎を引き起こすことがある(CAA関連炎症)。アミロイドが沈着した血管の周囲に炎症細胞の増加が見られること、CAA関連炎症の急性期の脳脊髄液中では抗Aβ抗体やmatrix metalloproteinasesの上昇がみられること、CAA関連炎症の脳実質でミクログリアの活性化が生じていることから、血管壁に沈着したAβに対する過剰な免疫反応によって炎症・血管炎が惹起されると推定されている。しかし、その詳細な病態は依然として不明である。Alzheimer病の疾患修飾治療としてAβに対する免疫療法が開発され、わが国においても日常診療で使用可能な状況となりつつある。Aβに対する免疫治療の副作用として、浮腫や出血の増加といったamyloid-related imaging abnormalities(ARIA)が報告されている。Aβに対する能動免疫治療を受けた症例の病理学的な解析から、脳実質より除去されたAβがintramural periarterial drainage pathway(IPAD)などからの排出過程で血管壁に沈着すると考えられている。沈着したAβによる血管壁の構造および機能的変化やAβに対して免疫反応を生じることで血管壁が障害され、ARIAが発症すると考えられている。一方、Aβに対する受動免疫治療を受けARIAを発症した症例の病理学的な解析の報告はなく、ARIAの詳細なメカニズムは不明である。本講演では、CAA関連炎症やARIAの病態について、我々の研究成果を含めた最新の研究結果を提示する。
7月8日(土) 8:30-10:30 Room C
3SY②-3
獲得性CAA:ヒトにおけるAβ個体間伝播を中心に
Acquired cerebral amyloid angiopathy: an emerging concept related to human-to-human transmission of Aβ

山田 正仁1
1. 国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 内科(脳神経内科), 2. 東京医科歯科大学 脳神経病態学分野
Masahito Yamada1
1. Division of Neurology, Department of Internal Medicine, Kudanzaka Hospital, Tokyo, Japan, 2. Department of Neurology and Neurological Science, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo, Japan

Sporadic cerebral amyloid angiopathy (CAA) is commonly found in older people and patients with Alzheimer’s disease (AD). Interestingly, non-genetic CAA-related hemorrhages have been recently reported in younger people who mostly had the history of neurosurgeries with or without evidence of cadaveric dura mater grafts in childhood. Incidental Aβ pathology, predominantly Aβ-CAA, have been recognized in recipients of cadaveric dura mater grafts or cadaveric human growth hormone. It is estimated that it takes 11 or more years for development of incidental CAA and other Aβ pathologies and 25 or more years for clinical onset of CAA-related hemorrhages and other manifestations after neurosurgery or dura mater grafting. It is suggested that transmission of Aβ seeds through dura mater grafts and other contaminated materials could lead to development of CAA leading to CAA-related hemorrhages after long incubation periods. To elucidate whether Aβ is preferentially transmitted as CAA, we intracerebrally injected extracts from human brains with different Aβ pathologies into model mice, and found that CAA is a predominant feature in all the groups of mice. To establish an inactivation method of Aβ seeds to prevent iatrogenic Aβ transmission, we characterized the conditions of autoclaving for inactivation of seeding activity of Aβ aggregates in vitro, requiring further in vivo studies.
7月8日(土) 8:30-10:30 Room C
3SY②-4
CAAの新しい治療戦略
Cutting-Edge Therapeutic Approaches to Cerebral Amyloid Angiopathy

井上 泰輝1
1. メイヨークリニック脳神経科学部門, 2. メイヨークリニック脳神経科学部門
Yasuteru Inoue1
1. Department of Neuroscience, Mayo Clinic, 2. Department of Neuroscience, Mayo Clinic, Jacksonville, Florida, USA

近年、アミロイドーシスの研究領域では、その原因となるアミロイド(線維性の異常タンパク)と共存するタンパク質が分子基盤の解明と治療開発の鍵として認識されるようになった。特にアルツハイマー病においては、老人班におけるアミロイドβ (Aβ) と共存するタンパク質を、プロテオミクス解析法を用いて同定しようとする研究が飛躍的に進展した。その代表的なものとして、アポリポプロテインE (ApoE), クラステリンが挙げられ、それらはAβの凝集やクリアランスに影響することが知られている。一方で、脳血管を病態の首座とする脳アミロイドアンギオパチー (CAA) においては、これまで共存タンパク質の検討がなされていなかった。そこで我々は、プレパラート上のCAA罹患血管から、レーザーマイクロダイセクションを用いて精密に脳血管を切削し、液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析器 (LC-MS/MS)によるプロテオミクス解析を行った。引き続いて、同定した共存タンパク質について、Aβとの関わりにおけるユニークな機能を見出した (Inoue Y, Acta Neuropathol. 2017. Inoue Y, Cell Mol Life Sci. 2022)。本講演では、これまでに本邦および海外で同定されたCAA共存タンパク質についてわれわれの研究成果を中心にレビューし、これらを制御することによる治療応用の展望について概説したい。