48. 生まれることが神経幹細胞の突起切断と血管への接着を引き起こす

著者
竹村晶子1,2,3,4、澤本和延1,2
1 名古屋市立大学大学院医学研究科 脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野
2 自然科学研究機構生理学研究所 神経発達・再生機構研究部門
3 藤田医科大学 医学部医学科 発生学講座 
4 藤田医科大学 精神‧神経病態解明センター 神経発生学部門
DOI
10.11481topics252
投稿日
2026/03/04

はじめに

胎児の脳には新しい神経細胞を生み出す神経幹細胞が多数存在しています。一方で、成体の哺乳類の脳では神経幹細胞は激減し、限られた場所でしか新しい神経細胞を作りません。
生後も神経幹細胞が残る脳の限られた場所として、脳室下帯という部位があります。脳室下帯ではこれまでの研究で、胎児の神経幹細胞が細胞体から伸びる細長い突起を持つのに対し、成体の神経幹細胞は短い突起で血管に接着していて両者の構造が異なることがわかっていました1)。血管に接着することで成体の神経幹細胞は新しい細胞を作るのをやめ一旦活動を休止させた静止状態を維持します1)。しかし、この大きな構造変換がいつ、どんな刺激によって起きるのかは不明でした。
一方で、一生を水中で過ごすゼブラフィッシュでは、成体になっても突起の長い神経幹細胞が存在します2)。このことから私たちは、水中(子宮内)から陸上(子宮外)への環境変化、つまり生まれること自体が、神経幹細胞の構造を変えるスイッチなのではないかと考えて本研究を行いました3)


1.生まれるというイベントが引き起こす突起の切断と血管への接着

まず、胎児期の幹細胞の長い突起がいつ短くなるのかをマウスで観察したところ、生まれた直後(生まれて6時間以内)に神経幹細胞の突起が急激に短くなることがわかりました。受精からどれだけ時間が経っているかよりも、生まれたかどうか、そして生まれて酸素濃度が上がることが重要でした。カルパインというタンパク質分解酵素がハサミのように突起を切り、切り離された突起の先端はN-カドヘリンという接着因子の助けによって血管に接着しているようでした。このようにして、神経幹細胞は生まれた直後に突起を切断して血管に接着することがわかりました(図1)。

2.早産がもたらす長期的な影響

もし生まれることが重要なスイッチであるなら、そのタイミングがずれると、神経幹細胞の将来に影響が出るはずです。私たちは先行研究で、予定より早く生まれるようにした早産を再現したマウス(以下、早産マウス)では、成体で神経幹細胞が新しい神経細胞を作る能力が低下していることを示していました4)。本研究の結果から、その原因は生まれた日に神経幹細胞が血管への接着に失敗しているからであると考えられました。実際、早産マウスでは成体になっても神経幹細胞が血管に接着していないことが多く、その上突起に多数の分岐がある構造異常を示しました(図2)。

まとめと展望

本研究は、生まれるというイベントが単なる通過点ではなく、神経幹細胞の構造変換を担うスイッチであることを明らかにしました。ただし、本研究は主にマウスを用いた解析に基づくものであり、早産がヒトの神経幹細胞に同様の影響を与えるかは未解明です。今後は、酸素だけでなく、体温や栄養、ホルモンといった生まれる時に変動する環境要因がどのように脳や全身の発達に関わるのかを解明することで、神経発達の仕組みのさらなる解明につながると期待されます。

なお、以下の Sketchfabというサイトのリンクから、図2で示した神経幹細胞の構造を様々な角度からご覧いただけます。

開示すべき利益相反はありません。


引用

  1. Obernier K, Alvarez-Buylla A. Neural stem cells: origin, heterogeneity and regulation in the adult mammalian brain. Development (Cambridge, England), 146 (2019) doi: 10.1242/dev.156059. 総説
  2. Jurisch-Yaksi N, Yaksi E, Kizil C. Radial glia in the zebrafish brain: Functional, structural, and physiological comparison with the mammalian glia. Glia, 68:2451–2470 (2020) doi: 10.1002/glia.23849. 総説
  3. Takemura S, Kawase K, Wolbeck L, Nakamura Y, Matsumoto M, Jinnou H, Tahara A, Sawada M, Kubota Y, Herranz-Pérez V, García-Verdugo JM, Ishibashi N, Gallo V, Ohno N, Khodosevich K, Sawamoto K. Transformation of radial glia into postnatal neural stem cells depends on birth. Cell Reports, 0:116029 (2025) doi: 10.1016/j.celrep.2025.116029.
  4. Kawase K, Nakamura Y, Wolbeck L, Takemura S, Zaitsu K, Ando T, Jinnou H, Sawada M, Nakajima C, Rydbirk R, Gokenya S, Ito A, Fujiyama H, Saito A, Iguchi A, Kratimenos P, Ishibashi N, Gallo V, Iwata O, Saitoh S, Khodosevich K, Sawamoto K. Significance of birth in the maintenance of quiescent neural stem cells. Science Advances, 11:6377 (2025) doi: 10.1126/sciadv.adn6377.

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