神経化学トピックス

神経化学のトピックを一般の方にもわかりやすくご紹介します。
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11. 多発性硬化症に対する新たな治療標的分子:RGM
   山下俊英(大阪大学 大学院医学系研究科 分子神経科学)
多発性硬化症に対する新たな治療標的分子:RGM

Muramatsu, R., Kubo, T., Mori, M., Nakamura, Y., Fujita, Y., Akutsu, T., Okuno, T., Taniguchi, J.,
Kumanogoh, A., Yoshida, M., Mochizuki, H., Kuwabara, S. & Yamashita, T.: RGMa modulates T cell
responses and is involved in autoimmune encephalomyelitis. Nat. Med. 17, 488-494 (2011).

DOI 10.11481/topics11
登録日:2017年2月9日

多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経などに炎症が生じ、重篤な神経症状をきたす神経難病で
ある。多発性硬化症のはっきりした原因はまだ明らかではないが、免疫系の異常、特に、抗
原提示細胞によるT 細胞の活性化に異常があると考えられている。しかしながらそのメカニ
ズムについては、不明の点も多く、今後の解明が待たれていた。一方、RGM は発生の途上で
神経の回路形成を制御するたんぱく質として知られていた1。私たちは、RGM が抗原提示細
胞にも発現していることを突き止め、免疫系におけるRGM の機能を解明することを目的として、
本研究を遂行した2

私たちは、抗原提示細胞である樹状細胞が活性化される時に、RGM の発現が高まること
を見いだした。さらに、この樹状細胞に発現しているRGM が、T 細胞の活性化を強めるこ
とを明らかにした(図1)。すなわち、抗原提示細胞がT 細胞を活性化する際に、RGM はそ
の活性化を促進することを示すものである。そこで、多発性硬化症に類似する脳脊髄炎を発
症する実験モデルとして、マウスに実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症させた。このマウスに
RGM の機能を中和する抗体を投与すると、脳脊髄炎による神経症状が抑えられた(図2)。
この中和抗体の効果は、樹状細胞に発現するRGM に結合することで、T 細胞の活性化を抑
えるためであることがわかった。また多発性硬化症は脳脊髄炎の再発を繰り返す難病である
が、このRGM 中和抗体は脳脊髄炎の再発を抑制する効果も持っていた。さらに私たちは、
多発性硬化症患者から採取した血液を用いて解析を進めた。その結果、RGM 中和抗体は、末
梢血中のT 細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制した。これらの結果より、RGM 中和
抗体は、T 細胞の活性化を防ぎ、脳脊髄炎に特徴的な炎症性サイトカインの産生を抑制する
ことで、自己免疫性脳脊髄炎の発症と再発を防止する効果をもつことが明らかになった(図1)。
今回の研究成果は、RGM 中和抗体が多発性硬化症の治療薬として有望であることを示したも
のである。今後、ヒトに有効な治療薬(ヒト型モノクローナル抗体)の開発が期待される。
1. Yamashita, T., Mueller, B. K. & Hata, K.: Neogenin and repulsive guidance molecule
signaling in the central nervous system. Curr. Opin. Neurobiol., 17, 29-34 (2007).
2. Muramatsu, R., et al.: Nat. Med. 17, 488-494 (2011).



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